大腿骨近位部骨折後の長期的なリハビリテーションの継続は患者の身体機能を向上させる:システマティックレビューとメタアナリシス

Auais MA, Eilayyan O, Mayo NE.: Extended exercise rehabilitation after hip fracture improves patients' physical function: asystematic review and meta-analysis. Phys Ther. 2012 Nov;92(11):1437-51.

PubMed PMID:22822235

  • No.1302-1
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年2月1日

【論文の概要】

背景と目的

 大腿骨近位部骨折の主となる目標は、受傷前の身体機能レベルへ回復することであるが、ほとんどの者は受傷前のレベルまで回復することは難しい。運動療法はこのような骨折による悪影響を軽減するために最も有効な戦略の1つである。 
​ この研究の目的は、大腿骨近位部骨折患者に一定期間を越えて身体機能改善のためのリハビリテーションを施行したときの効果に関する報告を調査し、定量的にまとめることである。

データソース

 コクランライブラリー、PubMed、CINAHL、PEDro、EMBASEのデータベースから、2012年4月まで掲載されているすべての論文にわたり検索した。 
​ 検索はMeSHの標目を利用し、"community dwelling"や"Hip Fractures"、"Randomized Controlled Trial"などの複数用語をキーワードとした。

方法

・研究報告の選択 
大腿骨近位部骨折後の地域在住者を対象として、一定期間で運動療法を終了した者と長期的に運動療法を継続した者とをランダム化比較試験で比較しているすべての研究報告を選択した。運動療法の期間は、研究報告された国によって代表的な値を基準に、その期間を越えて延長した場合を設定している。長期的運動療法プログラムは、退院後に自宅または地域で実施されていた。 

・データの抽出と統合: 
対象とした研究報告のデータを要約するステップと、11個の機能的アウトカムに関する効果量(ES)・95%信頼区間(95%CI)をプールして求めるステップに分け、2名の検者が各ステップを独立に評価した。機能的アウトカムは、①患側の膝伸展筋力、②健側の膝伸展筋力、③バランス(Berg Balance Scale、Functional Reach Test、distance test、高齢者用global balance measureの4種類の指標を使用)、④パフォーマンステスト(Tinetti Performance-Oriented Mobility Assessment-part 2、Physical Performance Testの原版または修正版、Physical Performance Mobility Examinationの4種類の指標を使用)、⑤最大歩行速度、⑥至適歩行速度、⑦Timed ”Up&Go” Test(TUG)、⑧6分間歩行テスト(6MWT)、⑨日常生活活動(ADL)、⑩手段的ADL(IADL)、⑪36-item Short Form Health Surveyの身体機能サブスケール(SF-36-PF)とした。

結果

 13編の研究報告がシステマティックレビューの対象となり、うち11編に対してメタアナリシスを適用した。長期的運動療法プログラムの継続期間の範囲は、地域で実施されたものが2~12ヶ月、自宅で実施されたものが1~12ヶ月であった。レビューに用いた研究報告の国の内訳は、アメリカ5編、ヨーロッパ4編、オーストラリア3編、台湾1編であった。 
​ 患側・健側の膝伸展筋力(患側ES=0.47、95%CI=0.27~0.66、健側ES=0.45、95%CI=0.16~0.74)、バランス(ES=0.32、95% CI=0.15~0.49)、パフォーマンステスト(ES=0.53、95% CI=0.27~0.78)、TUG(ES=0.83、95% CI=0.28~1.4)、最大歩行速度(ES=0.42、95% CI=0.11~0.73)は長期的な運動療法を実施することによる有意な向上が認められ、適度のESを示した。至適歩行速度、6MWT、ADLとIADL、SF-36-PFは有意とならなかった。 
​ 自宅で実施された場合と比較して、地域で実施された場合のESがより大きくなった。

結論

 著者らの知る限りでは、この研究は大腿骨近位部骨折患者に対して、一定期間を越えて運動療法プログラムを継続することで様々な身体機能に有意な効果を得るという根拠を提供した最初のメタアナリシスである。今後は、運動療法プログラムを長期的に行うことによる費用効果についても検討すべきである。

【解説】

 大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン[1]によると「術後最低6ヶ月程度はリハビリテーションの継続による機能回復に有効である」とする高いレベルのエビデンスが提示されている(推奨Grade B、エビデンスレベルIb、Ⅱ)。 
​ 本論文でシステマティックレビューおよびメタアナリシスを適用された研究報告では、運動療法の継続期間の範囲が1~12ヶ月と大きく、ADLやIADLなどの改善に対しては有効であるとはいえない結果であった。適用された論文数は11~13編と多くはないため、長期的な運動療法継続の効果に関してレベルの高い根拠を得るにはさらなる検討が必要となる。 
​ 高齢な大腿骨近位部骨折患者は、受傷前の身体・精神機能レベルのばらつきだけではなく、受傷・手術後の身体・精神的ダメージのばらつきも大きいため、ルーチン化されたリハビリテーションを提供しても順調に進まないケースは多い。これは、限られた症例にしか加速的リハビリテーションの効果が及ばない[2]ことにも共通するだろう。

【参考URL】

  1. 大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン(医療情報サービスMindsにより公開中):
    http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0016/G0000042/0111
  2. 大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン:
    http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0016/G0000042/0110

2013年02月01日掲載

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