脳性麻痺における足部変形によって引き起こされる歩行の代償動作

Stebbins J, Harrington M, Thompson N, Zavatsky A, Theologis T: Gait compensations caused by foot deformity in cerebral palsy. Gait Posture 2010 Jun;32(2):226-30

PubMed PMID:20627728

  • No.1305-2
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年5月1日

【論文の概要】

背景

 脳性麻痺は関節と筋の間に多様な相互関係がある複雑な症候群である。移動パターンの異常はモーションキャプチャー技術を使用することで測定可能である。しかしどの異常が主要なもので、どれが二次的なものか、直接的に決定することはできない。足部変形は脳性麻痺児で頻繁に観察される。足部変形は、同側のより中枢側の下肢の関節や反対側の下肢に代償的な異常を引き起こすと逸話的に報告された。しかしこれらの代償動作の本質は不明確である。

目的

 本研究の目的は、脳性麻痺痙直型片麻痺児における代償動作のメカニズムを特定するため明確で客観的な基準を規定すること、足部手術の結果予測を改善させること、また治療計画を向上させることである。

対象

 整形外科外来クリニックに通院している、脳性麻痺痙直型片麻痺児12名(平均年齢11.8歳、6~14歳、男児6名、女児6名)である。参加基準は、痙直型片麻痺の確定診断を受けており、麻痺側足部に外科的手術を必要とするような臨床症状があり、基本評価時に6~16歳で、協力と理解が適切な児とした。足関節より中枢側の外科的手術を必要とする児は除外された。コントロール群は、健常児15名(平均年齢9.5歳、6~14歳、男児10名、女児5名)であった。評価は術前と術後12カ月後に行われた。

方法

 表面筋電図の電極を腓腹筋と前頸骨筋に貼付した。Oxford Foot Modelに従い反射マーカーを貼付し、従来の歩行分析を用いて評価した。12台の赤外線カメラで、下肢と足部の三次元動作の測定を行い、サンプリング周波数は100Hzであった。被験者はフォースプレートを越えて10mの歩行路を、裸足で通常速度で歩行した。 
 術側の前足部・中枢側の関節および非術側の骨盤・膝関節・足関節といった、足部手術によって直接影響を受けない変数を分析した。

結果

 骨盤前傾は、術前から骨盤前傾が増強していた6例中1例だけが術後に改善した。骨盤回旋は5例中3例で改善した。また術側股関節内旋、非術側股関節外旋で改善傾向がみられた。イニシャルコンタクトからミッドスタンスにかけて、術側膝関節伸展で改善がみられた。

考察及び結論

 主要な変形によって引き起こされた二次的な代償動作は重要である。しかし、必ずしも機能的な援助は必要ではなく、変形による機械的強制のなかで最適な動きを促進するために、いくつかの代償動作を行っていたということは注目されるべきことである。 
​ 立脚期での術後の術側膝関節の運動学的改善は、手術の結果かもしれないし、代償メカニズムの自然な修正を反映しているかもしれない。全被験者が腓腹筋かアキレス腱の手術をしており、これは直接的に膝関節の運動に影響しないと言いきれない。腓腹筋は二関節筋であり、足関節と膝関節の両方に作用しており、この筋の性質の変化は膝関節の運動パターンにも影響を及ぼす。 
代償戦略の数は、脳性麻痺痙直型片麻痺児の下肢を運動学的に分析することで証明される。これらの発見は、脳性麻痺痙直型片麻痺児の方向障害の代償動作の発見の一助となるかもしれない。

【解説】

 本研究は足部手術を施行した脳性麻痺痙直型片麻痺児に対し、手術による直接的な影響を受けない他の関節の動きを分析し、そこから代償動作を考察している。 
​ 脳性麻痺でよくみられる変形・拘縮として、骨盤前傾斜、股関節屈曲・内転・内旋または屈曲・外転・外旋・脱臼・臼蓋形成不全、膝関節屈曲、足関節内反尖足または外反扁平尖足、足指屈曲、外反母趾などが挙げられる1)。片麻痺の子どもは遅くても3歳前までには歩行を獲得し、歩行が安定し小走り歩行や走行が可能になると内反尖足が著明になる2)と言われている。また歩行、走行などの活動が下腿三頭筋の形成を助長するだけでなく、健側下肢の痙性を増加させる要因の1つとなる2)とも言われている。整形外科的手術や装具療法が適応となるが、短下肢装具を装着することで足関節の尖足は改善するが、底屈運動が制限されるため下腿三頭筋の発育が抑えられ3)と言われている。 
​ それぞれの因子の関連性を考え、結果を予測し、治療計画を立案しなくてはならないと思われる。

【参考文献】

  1. 阿部光司:脳性麻痺(総論).こどもの理学療法,千住秀明・監,第2版,pp.79-90,神陵文庫,2007.
  2. 溝田康司:脳性麻痺(痙直型片麻痺).こどもの理学療法,千住秀明・監,第2版,pp.133-141,神陵文庫,2007.
  3. 河村光俊:脳性麻痺③痙直型片麻痺.小児理学療法学テキスト,細田多穂・監,pp.108-116,南江堂,2010.

2013年05月01日掲載

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