脂質異常症に対する運動療法とスタチン治療の併用による死亡率リスクに関するコホート研究

Kokkinos PF, at el : Interactive effects of fitness and statin treatment on mortality risk in veterans with dyslipidaemia: a cohort study:Lancet. 2; 394-9,2013

PubMed PMID:23199849

  • No.1306-2
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年6月1日

【論文の概要】

背景

 スタチン系薬剤は、脂質異常症や心血管疾患の治療に対して、一般的に用いられている。スタチン系薬剤が用いられるようになってから死亡率が減少したことからも、健康増進の一方法として推奨されている。健常者および心血管疾患を有しない患者を対象にした先行研究でも、年齢や性別に関わりなく、運動療法やスタチン治療が、虚血性心疾患による死亡リスクを減少させることが報告されている。また死亡率は耐運動能の低いもので高くなることが認められている。一方で、虚血性心疾患の予防として用いられているスタチン系治療との併用効果については検討されていない。

目的

 運動療法やスタチン治療は、虚血性心疾患の死亡率を低下させる効果があるものとして推奨されている。しかし、これらを併用した効果については殆ど報告されていない。また虚血性心疾患が高リスクで認められる脂質異常症患者に関する報告も少ない。そこで本研究では、脂質異常症を呈する者を対象に、運動療法とスタチン治療、およびそれらの併用が、死亡率に与える影響を検討した。

方法

 対象は、1986年から2011年に運動負荷試験を施行できた、脂質異常症を呈する退役軍人10,043名(平均年齢58.8±10.9歳)とした。参加者は運動負荷試験の結果から最大運動耐容能(MET)に基づき、四分位された。また3ヶ月以上のスタチン使用群非使用群に分けた。他、年齢調整死亡率、body mass index(BMI)、人種、性別、心血管疾患の既往歴、心血管疾患の危険因子に関して調査した。

結果

 10年間で2,318名の患者が死亡した。死亡リスクは、スタチン服用群で18.5%(5046名中935名)、非服用群で27.7%(4997名中1386名)であった。
​ 最大運動耐容能は、≦5.0MET、5.1~7.0MET、7.1~9.0MET、9.0>METで分けられた。
​ 交絡する可能性のある因子(年齢、BMI、人種、βブロッカー薬服用の有無、カルシウム拮抗薬服用の有無、アンジオテンシン変換酵素阻害薬服用の有無、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬服用の有無、アスピリン服用の有無、利尿薬服用の有無、喫煙歴、心血管疾患の既往の有無、高血圧の有無、糖尿病の有無)で補正後の結果は、スタチン服用の有無と最大運動耐容能は独立して、死亡率と有意に関連していた。
​ スタチン服用群での死亡率は、最大運動耐容能が最低の群を1とすると、補正ハザード比は、5.1~7.0METの群で0.64、7.1~9.0METの群で0.41、9.0>METの群で0.32であった。同様に非服用群での死亡率は、最大運動耐容能が最低の群を1とすると、補正ハザード比は、5.1~7.0METの群で0.74、7.1~9.0METの群で0.57、9.0>METの群で0.37であった。
​ 5.0≦METスタチン服用群を1としたときの補正ハザード比は、5.0≦MET非服用群1.35(p<0.0001)、5.1~7.0MET非服用群1.02(p=0.81)、7.1~9.0MET非服用群0.81(p=0.01)、5.1~7.0METスタチン服用群0.65(p<0.0001)、9.0>MET非服用群0.53(p<0.0001)、7.1~9.0METスタチン服用群0.41(p<0.0001)、9.0>METスタチン服用群0.30(p<0.0001)であった。

考察

 以上の結果から、スタチンの服用は脂質異常症患者の死亡率を低下させることが判り、また運動耐容能も同様の効果があることが示唆された。またスタチンを服用することと運動耐容能を向上させることで、更に死亡率が減少することが示された。
​ 健康で一般的な運動を行っていても、健康増進のための運動強度は得られにくい。疾病を予防し健康増進を測るには、今回の研究では、5METよりも高い運動耐容能が必要とされた。このことからも、生活における身体活動に対する適切な強度を含む必要性があると考える。

【解説】

 スタチンは、HMG-coA還元酵素阻害薬として日本でも用いられている薬物である。LDLコレステロールを下げ、HDLコレステロールを上げる作用がある。安全性も高く、長期服用により心血管系疾患の発症を抑える効果が数多く報告されている1-2)。一方で、確率は低いが筋肉痛や横紋筋融解症などの筋に対する副作用や、肝機能および腎機能障害の副作用も報告されている。しかし効果と安全性のバランスからも、積極的に服用すべき薬であるという見方が一般的である。一方、日本人に服用させる意味については、コレステロールが原因で起こる心血管疾患よりも、高血圧が原因で起こる脳血管疾患が多い日本人には否定的な見方もあった。しかし、近年食生活の変化で急激に脂質異常症が増えていることと、日本人でも、コレステロールをスタチンでコントロールすることによって、心血管疾患の予防に効果があることを証明した大規模臨床試験3-4)も行われ、スタチンは処方されるようになっている。ただし今回の研究では、スタチン服用が適応とならなかった脂質異常症の死亡リスクについては不明であり、今後の研究が待たれる。
​ 心血管疾患に対する運動が有効であることは、スタチン治療の有効性以前から報告されていた。しかし、必要な最大運動耐容能が5.1METとなると、日頃、何らかの対策を取っていないと困難であるかもしれない。例えば、10分以上のジョギングが出来ていれば約6METs だが、これは、定期的に運動していなければ容易ではない。疾病予防に効果的な7.0METは150ワットでの自転車エルゴメーターであるし、9.1METとなると時速8.4kmのランニングであるのだから、尚更とも言える。
​ しかし、適切な運動は身体に安全で効果的であるし、費用がかからないことを考えると、定期的な運動を行うことは、服用するスタチンの代替もしくは補助療法にもなり、もっと提唱されるべきだと考える。

【参考文献】

  1. Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaborators:Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90056 participants in 14 randomised trials of statins.Lancet366:1267-1278,2005.
  2. KK Ray, SR Seshasai, S Erqou, et al.:Statins and all-cause mortality in high-risk primary prevention: a meta-analysis of 11 randomized controlled trials involving 65,229 participants. Arch Intern Med, 170:1024-1031,2010.
  3. Nakamura H,Arakawa K,Itakura H,Kitabatake A,GotoY,Toyota T, et al.: Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a pro-pective randomized controlled trial. Lancet ; 368:1155-1163,2006.
  4. Mizuno K,Nakaya N,Ohashi Y,Tajima N,Kushiro T,Teramoto T, et al.: Usefulness of pravastatin in primary prevention of cardiovascular events in women: Analysis of the management of elevated cholesterol in the pri-ary prevention group of adult Japanese (MEGA Study). Circulation 117: 494-502,2008.

2013年06月01日掲載

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