脳卒中患者における下肢筋力と6分間歩行テストの関連性

Pradon D, Roche N, Enette L, Zory R. Relationship between lower limb muscle strength and 6-minute walk test performance in stroke patients. J Rehabil Med. 2013 Oct; 45: 105-108.

PubMed PMID:23095981

  • No.1307-2
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年7月1日

【論文の概要】

背景

 6分間歩行テスト(6MWT)は、呼吸循環器系分野において臨床および研究で広く用いられ、確立された評価方法として知られている。いくつかの先行研究において、歩行速度と下肢筋力において有意な関連性があるとを報告しているが、下肢筋力と6MWTの関連性について検討している報告は見当たらない。

目的

 この研究の目的は、脳卒中患者における下肢筋力、痙縮と6分間歩行テスト(6MWT)の関連性を検証することである。

方法

 全対象は24名(男性12名、女性12名)で、脳梗塞18名、脳出血6名、脳卒中発症からの期間は16±8ヶ月であった。実験手順として、まず胸部に心拍数(HR)モニターを装着し、10分間の安静時HRを記録した。麻痺側下肢の筋力は、MRC(Medical Research Council)scaleを用いて評価した。測定は、5つの筋群(股屈筋群、膝伸筋群、膝屈筋群、足底屈筋群、足背屈筋群)とした。各筋のMRCスコアの平均を算出し、また下肢のMRCスコアの合計を算出した。痙縮について、Modified Ashworth Scale(MAS)を用いて大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋の筋群を評価し、合計MASを算出した。最後に6分間歩行距離を自由速度で測定し、同時に心拍数を測定した。その上でPhysiological Cost Index(PCI)を算出した。また6分間歩行テスト終了時にBorgスケールを用いて自覚的運動強度(RPE)と歩行距離を確認した。
​ 対象者をMRC合計の中央値(MRC合計中央値14.5)より低い12名(LMRC)と高い12名(HMRC)の2群に分類した。各項目について、正規分布に従っていなかったため、Spearman順位相関係数を用いて6MWT距離とその他のパラメータの関連性に確認し、また目的変数を6MWT距離としたステップワイズ重回帰分析を実施した。また、LMRCとHMRCの2群間の比較にはMann-Whitney検定を用いた。

結果

 HMRCとLMRCの2群間の比較では、6MWT距離およびMRC合計においてHMRC群よりもLMRC群において有意に低い結果となった(それぞれp=0.003、p=0.0001)。HMRC群のPCIでLMRC群より有意に低い結果となった(p=0.008)。なお、MAS合計と安静時HR、6MWTのHR、RPEでは、2群間において有意な差は見られなかった。
​ ステップワイズ重回帰分析において第一選択された変数はMRC合計であり、6MWT距離の64%を説明した。6MWT距離を予測する回帰式は、6MWT distance = 窶錀11.4 + 20.37 MRC sum となった。Spearman順位相関係数では、6MWT距離とMRC合計で強い有意な正の相関(r=0.79、p=0.001)、PCIと中等度の負の有意な相関(r=-0.54、p=0.006)がみられた。6MWT距離と痙縮(MAS合計)、安静HRとRPEでは有意な相関は見られなかった。また、MRC合計とPCIで中等度の負の相関(r=-0.62、p=0.001)がみられた。

考察

 脳卒中片麻痺患者を対象とした先行研究で報告されたデータについて、6MWTの平均距離、安静時HR、6MWTのHRやRPEはすべて一貫している。6MWTのHRとRPEからは脳卒中片麻痺患者にとって6MWTはとても激しい運動であるとはいえない。また6MWTは患者の体力評価のためにデザインされたという事実があるにもかかわらず、6MWTのHRと距離の関連性は不十分な点が見られる。これは、VO2peakと6MWT距離の関連性が中等度であり、有酸素性体力に6MWT距離がそれほど強くないことを示唆している、という脳卒中患者を対象とした先行研究が裏付けている。そのため、脳卒中患者の呼吸循環器系体力の指標として6MWT距離だけを使用することは推奨されないとしている。
 これまで、Danielssonらが脳卒中患者における6MWT距離はFugl-Meyer点数と関連性があるという報告をしているが、下肢筋力との関連性は今まで明らかにされていなかった。本研究では筋力の影響を評価するために、対象者をMRCの合計点数で2群に分けて検証したが、結果として6MWTのHRとRPEが同様であるにも関わらずLMRC群で短い距離であることがわかった。さらに6MWT距離とMRC合計の間での強い正の相関とステップワイズ重回帰分析の結果から、6MWTと下肢筋力が関連していることが明らかであることが示された。脳卒中患者において、機能障害は痙縮と弱化の組み合わせが関連していると思われる。そのため、6MWT距離とMAS合計での痙縮評価の関連性が不十分であることはDanielssonらが報告したことからも示されており、6MWT距離とFugle-Meyer点数の間には、下肢筋力が起因している可能性がある。
 PCIを用いて評価したエネルギー消費については、HMRC群で有意に低い結果であり、また中等度ではあるがPCIと下肢筋力(MRC合計)と6MWT距離の間で有意な相関関係がみられた。この結果は、これまでの結果と同様に、脳卒中患者の歩行時のエネルギー消費が下肢筋力と強い関連性があることを表している。そして、6MWTはこれらの2つのパラメータに依存していることを示している。そのため、6MWTは脳卒中患者の呼吸循環器系の体力評価に使用すべきではないが、運動耐容能と歩行効率の良い指標であると考えられる。本研究にて6MWTでの筋力の役割が明らかにされたことから、レジスタンストレーニングまたはそれと組み合わせたトレーニング(有酸素およびレジスタンストレーニング)は6MWT距離を改善させるためのリハビリテーション手法が適切であろうと考える。

【解説】

 この研究報告は、脳卒中患者を対象に6MWTと下肢筋力や痙縮、およびその他のパラメータとの関連性を検証している。6MWTは広く呼吸循環器系疾患の体力評価として使用されているテストバッテリーであるが、脳卒中患者へ実施している報告はそれほど多いとは言えない。循環器系疾患である脳卒中において、ある一定以上の運動負荷を与えることは、循環器系のリスクを考慮すると積極的に行われていない印象がある。2000年以降、有酸素運動トレーニング、麻痺側下肢筋力トレーニング、またはそれらを組み合わせたトレーニングの有効性が検証されてきており1)~3)、耐久性評価としての6MWTや筋力評価が、アウトカム指標として選択されるようになっている。しかしながら、この研究で述べているように、単純に耐久性評価としてだけ6MWTを選択することが妥当かという点は先行研究をみても十分議論されていない。そのような点で本研究は、脳卒中患者における6MWTがどのような要素に影響されているかを明らかにしているという点で評価できる。結果として、6MWTとPCIおよび下肢筋力で有意に関連性が高いことが示され、下肢筋力の影響が強いことが明らかにされた。
 ところで、6MWTを代表とした有酸素性運動能力の評価や無酸素性運動能力の評価としての筋力測定に共通する点としては、循環動態および末梢(特に筋)での代謝機能が大きく関連しているものと考えられる。つまり、筋活動に必要な十分なエネルギー供給が行われているか(循環動態)、またエネルギー消費が効率よくかつ効果的に行われているか(代謝機能)という点が重要であり、運動生理学的な解釈のもと評価されることが必要となってくる。この点について、脳卒中患者を対象とした報告はほとんど見られないため今後期待したい。
 脳卒中患者を対象とした評価や治療介入において、リスク管理を優先的に考えてしまうと、十分な有酸素性および無酸素性運動能力を含めた体力評価が行われず、また、正確な体力評価が行えていない状態で介入方法を選択しなければならない。そのような点でも、今回の報告も踏まえて脳卒中患者の体力評価および介入方法をより明確にしていく必要性があると思われた。

【参考文献】

  1. Billinger S A, Mattlage AE, Ashenden AL, Lentz AA, Harter G, Rippee MA. Aerobic exercise in subacute stroke improves cardiovascular health and physical performance. J Neurol Phys Ther 2012; 36(4): 156-165.
  2. Mudge S, Barber PA, Stott NS. Circuit-based rehabilitation improves gait endurance but not usual walking activity in chronic stroke: a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil. 2009; 90(12): 1989-1996.
  3. Tang A, Kathryn MS, Mark TB, William EM, Dina B. Do functional walk tests reflect cardiorespiratory fitness in sub-acute stroke? J Neuroeng Rehabil 2006; 29: 3-23.

2013年07月01日掲載

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