後方歩行計測は運動性とバランスの年齢的変化を敏感にとらえる

1) Fritz NE, Worstell AM, Kloos AD, Siles AB, White SE, Kegelmeyer DA.: Backward walking measures are sensitive to age-related changes in mobility and balance. Gait Posture. 2013 Apr;37(4):593-7.

PubMed PMID:23122938

  • No.1309-2
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年9月1日

【論文の概要】

 高齢者の転倒の多くは、後方への動揺、椅子に座るための方向転換や後方ステップといったような後方への動きが要求されるような運動の移行期に起こる。これらの転倒は、後方動揺に対するステップ反応の低下と後方歩行の困難さと関連しているかもしれない。先行研究では、若年成人と比較し健常高齢者では、後方歩行時の歩行速度とストライド長が著しく低下すると述べている。歩行のばらつきが増すことは、転倒の危険性が増すということである。効率的な後方ステップができないということは、高齢者の機能的歩行能力を低下させ、転倒の危険性が増加するということを示唆している。

目的

 本研究の目的は、(1)若年者(18~34歳)と中年者(35~64歳)と高齢者(65歳以上)、(2)高齢転倒者と高齢非転倒者、これらにおける後方歩行と前方歩行の時間空間的計測を比較することである。また、安全で機能的な臨床的計測として後方歩行の有用性を決定するため、年齢と後方歩行と前方歩行の関連の強さを比較することである。

対象

 若年者37名、中年者31名、高齢者62名であった。高齢者のうち25%が介助を必要とし、50%が屋外では歩行補助具を使用していた。転倒歴の有無によってさらなる分析を行うため、多くの高齢者は2回実験に参加した。すべての参加者は歩行補助具と(または)身体的介助なしで約3m以上歩行可能であった。妊婦、整形外科的疾患あるいは神経学的疾患により歩容に影響が及んでいる者は除外した。

方法

 時間空間的計測は、GAITRiteを使用した。事前に1週間の運動の種類と量、自己申告による過去6か月の転倒数、歩行補助具の使用の有無を調査した。被験者は、前方歩行と後方歩行をそれぞれ各3回、GAITRiteの歩行路を快適なペースで歩行した。加速期と減速期を考慮するため歩行路の前後2mを歩行した。

結果

 若年者は年齢24.1±2.5歳(21-31歳)男性10名・女性27名、中年者は年齢47.3±7.9歳(35-61歳)男性27名・女性4名、高齢者は年齢85.3±6.7歳(66-98歳)男性12名・女性50名であった。2名の高齢者が健康上の問題のため参加基準を満たさず除外した。
​ 歩行速度は若年者(後方歩行1.13±0.2m/s、前方歩行1.49±0.2m/s)と中年者(後方歩行1.03±0.2m/s、前方歩行1.48±0.2m/s)は類似しており、これらと比較し高齢者(後方歩行0.52±0.2m/s、前方歩行1.07±0.3m/s)では有意に低下していた。また高齢者はストライド長が著明に短く、若年者と中年者よりも後方・前方歩行の両方において両脚支持期と立脚期の割合が増加し、遊脚期の割合が減少していた。
​ またすべての高齢転倒者は後方歩行速度が0.6m/s以下であった。

考察

 後方および前方歩行のパフォーマンスは、若年者や中年者と比較し高齢者では著しく低下し、前方歩行より後方歩行でより著明である。さらに高齢者の後方歩行において、転倒歴の無い者より有る者の方が著明に低下する。後方歩行速度は、前方歩行速度より正確に転倒者を分類することができる。
​ 後方歩行と機能的運動性との関連を調査するため、また異なる年代や疾患別等における転倒リスクの評価としての後方歩行速度の妥当性を決定するため、更なる研究が必要である。

【解説】

 後進歩行は進行方向に対し背を向けて歩くため、われわれにとっては「不自然な歩行」[1]と言われている。この後進歩行は日常場面で長い距離を実行するものではないが、対面時の回避や椅子への移乗などの際、数歩行う動作でもある[2]。大杉ら[3]は、健常成人を対象とした研究で、後方歩行では前方歩行に比べ、歩幅、歩効率、歩行速度が有意に低い値を示したと報告している。美和ら[4]は、高齢者における後方歩行は、前方歩行に比べて歩幅の減少、歩行速度の低下が認められ、また進行方向に対する視覚情報が得られず、高齢者にとっては非常に困難な歩行状態であったと考えられると報告している。
​ 後方歩行は高齢者にとっては困難な動作であり転倒の危険性も高い。後方歩行と転倒の関係性を明らかにするため、今後の研究が期待される。

【参考文献】

  1. 北湯口純・見波静:後進歩行の動作分析.理学療法20:551-556,2003.
  2. 髙見彰淑:後進歩行の特徴について.秋田理学療法16(1):3-7,2008.
  3. 大杉紘徳・美和香葉子・重森健太:健常成人の後方歩行の特徴.理学療法科学22(2):199-203,2007.
  4. 美和香葉子・大杉紘徳・重森健太・他:高齢者の後方歩行の特徴およびバランス能力との関連性.理学療法科学22(2):205-208,2007.

2013年09月01日掲載

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