音の行為表象:新奇に獲得された行為を聴いている間の聴覚運動認識ネットワーク

Lahav A, Saltzman E, Schlaug G. Action representation of sound: audiomotor recognition network while listening to newly acquired actions.J Neurosci. 2007 Jan 10;27(2):308-14.

PubMed PMID:17215391

  • No.1403-1
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年3月1日

【論文の概要】

背景

 サルの聴視覚ミラーニューロンの発見は、ヒトの運動前野が行為の観察だけでなく行為に関連した音を聴いた時にも関与するという仮説の基になった。しかし、“行為-聴覚”の根底にある脳全体の構造と機能は十分解明されていない。

目的

 本研究の目的は、言語的意味を持たない統制された新奇に学習された聴覚刺激は、行為と連関し、行為のイメージを導く音となるのかどうか、また、音と行為を連動し習得した時に賦活する脳領域部位を明らかにすることである。

方法

 対象は音楽に関するトレーニングを受けたことのない右利き健常成人9名とし、神経学的既往及び精神医学的あるいは聴覚的な問題がない者とした。実験デザインは練習段階とfMRI撮像段階の2段階とした。練習段階は5日間とし、インタラクティブソフトウエア(耳による演奏学習)を用いて被験者に新奇な楽曲のピアノパートの弾き方を習得させた。練習は、5つのキー(F,G,A,B♭,C)上に右手指を置き実施した。聴覚-運動学習の評価として、習得時間の計測とピッチ-認識-演奏テスト(PRP)を練習前・後に行った。PRPは、30個の音符(練習した5つの音符のセットからなる)を聴かせ、聴いた音符と同じ音符の鍵盤を右手指で押させた。聴覚刺激は、特別に制作した3つの楽曲(各24秒8小節・全15音符,80bpm)を用いた。1曲(練習課題:行動‐聴覚条件)のみ弾き方を習得させ、他の2曲(コントロール条件:①異なる音符で構成(F♯,G♯,B,C♯,D♯)、②異なるメロディで構成(F,G,A,B♭,C))は聴かせるのみとした。練習課題の習得後、実験2段階目を実施した。5~8秒の短小節の音楽(全32短小節, 3つの楽曲から抜粋した小節を編成したもの)を聴かせた後にfMRIを撮像した。その後、3つの連続した音(3トーン認識課題)を聴き、もし聴いた音符が先行して聴いた音楽であれば左手でボタンを押すという行動調整課題を行った。

結果

 学習1日目は、習得時間の差が被験者間で大きかった(平均29.11分,SD5.53)が、4~5日目には最小学習時間(12分間)内で一定となった。PRPは、習得前の24%から習得後には77%に改善した。3トーン認識課題及びfMRI撮像中のエラー率に聴覚刺激条件間で有意差はなかった。音楽条件による神経活動は、注意のレベルや提示した楽曲の違いによる差を認めなかった。安静時と比較して全聴覚刺激条件において、両側第一次聴覚野と第二次聴覚野の賦活が認められた。練習課題を聴いた時は練習していない異なる音符で構成された曲を聴いた時には見られなかった運動前野の後・中部と後下前頭回(ブローカ領域と右ブローカ相同体;44・45野)を含む前頭頂運動関連領野の顕著な賦活が認められた。賦活の程度は小さいが、両側下頭頂葉(縁上回,角回)と左小脳の賦活が認められた。しかし、一次運動野の手や指の領域は、全聴覚刺激条件において賦活しなかった。練習課題を聴いた時と練習していない同じ音符で構成された曲を聴いた時とを比較すると、ブローカ領域と右半球のブローカ領域の相同部位を含む後下前頭回だけでなく、左半球の運動前野後部においても有意に賦活した。下前頭回弁蓋部を関心領域に設定し解析すると、右下前頭回の賦活は両聴覚刺激条件でかなり残存していたが、左下前頭回は練習課題を聴いたときのみ有意に賦活した。

考察

 短小節の音楽を聴いたときに前頭頂葉のミラーニューロンシステムの主領域を含む聴覚-運動認識ネットワークが賦活したことから、高いレベルで行為に関連した音の検出が行われていることが示唆された。以前聴いたことがある曲を聴く時、運動野と運動前野の賦活は起こる。下前頭回は、弾き方を習得した曲(行為を伴った聴覚刺激)を聴いた時に賦活した。これは、ヒトのブローカは、サルの脳のF5に値し、言語,感覚運動統合の機能、模倣、形式上の連続した予測、主観的な模倣の連続した活動にも関わるという見解を強く支持した。ブローカの賦活は、行為再現の連続した特殊プライミングを反映する。行為-聴覚条件中のブローカの賦活は、音に関連する行為を想起させる支配領域が左半球であるとする研究を強く支持した。 

【解説】

 ミラーニューロンシステムの研究は、ヒトの様々な行動特性を解明してきた1)。ヒトの行動認識システムは個々の運動経験に強く関連する。また、行為と聴覚の同調能力の活用には、行為を伴って聴いたことがある音と聴覚的にのみ知っている音を識別する必要がある2)。本研究によれば、習得した行為は、そのときの音とその行為の再現に連関するものとの間の機能的なネットワークリンクを直ちに聴覚的にも表出する。この発見は、聴視覚ミラーニューロンシステムの研究だけでなく脳イメージング研究においても重要な役割を担い3)4)、行動-聴覚領域の更なる研究を後押しする可能性があると考える。

【参考文献】

  1. Rizzolatti G, ArbibMA (1998) Language within our grasp. Trends Neurosci21:188-194.
  2. Langheim FJ, Callicott JH, Mattay VS, Duyn JH, Weinberger DR (2002) Cortical systems associated with covert music rehearsal. NeuroImage 16:901-908.
  3. Grezes J, Decety J (2001) Functional anatomy of execution, mental simulation,observation, and verb generation of actions: a meta-analysis. HumBrain Mapp 12:1-19.
  4. Patuzzo S, Fiaschi A, Manganotti P (2003) Modulation of motor cortex excitability in the left hemisphere during action observation: a single- andpaired-pulse transcranial magnetic stimulation study of self- and nonself-action observation. Neuropsychologia 41:1272-1278.

2014年03月01日掲載

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