脳卒中症例に対するバーチャルリアリティリハビリテーションの社会的認知理論、運動学習理論を用いた分析

Imam B, Jarus T: Virtual Reality Rehabilitation from Social Cognitive and Motor Learning Theoretical Perspectives in Stroke Population. Rehabil. Res. Pract. 2014;2014:594540.

PubMed PMID:24523967

  • No.1406-1
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年6月2日

【論文の概要】

背景

 脳卒中患者の下肢に対するリハビリテーションに使われるバーチャルリアリティ(VR)による介入を確認し、その根底にある訓練メカニズムを社会的認知理論(SCT)や運動学習理論(MLT)の枠組みを使って説明することを目的とする。
 それぞれのVR介入の基礎となる理論の説明は、SCTとMLTの理論を用いた。SCTの要点は自己効力感であり,自己効力感は目標とする行動を達成、学習することと直接的に結びついている。自己効力感は代理学習、自己の成功経験、言語的説得を通して強化される。代理学習とは他の人の行動を観察し模倣することを通じて学習することである。他人がある課題を成功裏に成し遂げるのを観察することは観察者にとってもその課題を成し遂げられるとの自己効力感をもつことができる。模倣することは観察者とモデルをより詳細に比較するのに効果的である。自己の成功経験の理論は課題を行うことを通して学習するプロセスである。一度簡単な課題を達成したら、より難しい課題を与える。特定の課題を行う中で改善ができたら、その課題を通して達成感を得ることができるだろう。言語的説得はある課題を行っている学習者に励ましと支持を与える。
 MLTは練習や経験の直接的な結果として、ある課題を行う能力が比較的永続的に変化することを導く一連の内的過程と定義されている。その過程は獲得、保持、転移の3つに分けられる。獲得の過程の指標はパフォーマンスレベルであるが、保持、転移の指標は課題の学習レベルである。例えば、研究室内で歩けるのが獲得レベル、後でもう一度歩けるのが保持レベル、コミュニティの中で歩けるのが転移レベルである。MLTによれば練習の中では主に注意の焦点、実施の順序と予測性、付加的フィードバック、フィードバックの削減などが学習を仲介している。注意の焦点は外的焦点と内的焦点。順序と予測性は予測可能なブロック練習もしくは一定の練習と予測不可能なランダム練習もしくはさまざまな練習に分けられる。一定の練習は同じ活動を一定の順番でくりかえす。可変練習は異なる活動を予測不可能なランダムな順番で繰り返す。予測不可能な可変練習は一般的に他方よりも運動学習、保持、転移を増進するのに有効である。新規な予測不能の状況に適応する能力を獲得するのにそれぞれの練習の中での比率は直接的に影響を与える。付加的フィードバックにはknowledge of performance (KP)とknowledge of result (KR)がある。例えば動きのパターンについての修正を行うフィードバックはKP。どっちも重要であるが、頻繁なフィードバックはネガティブな影響を与える。なぜなら外的なフィードバックに頼ってしまい、自らの内的なフィードバックを受け取れなくなるから。学習者のパフォーマンスが改善していくにつれてフィードバックを減らしていくと適切な学習が得られる。

方法

 検索方法は2013年7月11日までのMedline、 Embase、CinahlそしてCochraneデータベースを検索した。脳卒中患者の下肢へのVRリハビリ介入を含むRCT研究をピックアップした。主な検索語はVR、脳卒中、RCTであった。検索エンジンによって関連する見出し語、キーワードも採用された。
 採択方法として、研究デザインは査読付きRCT論文、対象は急性、亜急性、慢性期の18歳以上の脳卒中患者、介入は既成のゲームを使ったもの、没入型、非没入型を含むVRを使用した介入、結果に少なくとも一つ以上の下肢の運動機能、活動、回復に関する有効な指標を含む研究を採択することとした。
 研究の品質分析には理学療法エビデンスデータベース(PEDro)スケールを使用した。
 データは、サンプルの実験介入と対照介入、介入の頻度と期間、主な結果判定法、データ取得日、主たる発見を含むデータを抽出した。採択された研究のそれぞれのVR介入をSCTとMLT理論を使用して説明した。SCTには、VR介入は以下のSCT理論に従うかを分析した:代理学習(モデルとして提示できる画面上の自身、もしくはアバター、仮想教師の部分的、もしくは全体的イメージが提示されているかどうか)、自己の成功経験(段階的学習の存在)、言語的説得(ゲーム中、もしくはゲーム後の励まし、もしくは指示の提供)。MLT介入についてはMLTの理論に基づいた効果的な学習があるか否かを評価した:注意の外的焦点化、予測不能で多様な練習、付加フィードバックの存在とその削減。

結果

 最初に428論文が検索されたが、基準に従って選別したところ最終的に11論文が抽出された。
 PEDroスコアは3-7/10であった。一つを除いてすべての研究はVR群を支持する良好な改善が示された(p < 0.05)。10のVR介入は自己の成功経験の理論に従った。9つの研究介入では予測不能、もしくは多様な方法が支持され、11全てのVR介入は被検者の注意の外的焦点化を行っていた。

考察

 一つを除きすべての研究でVR介入に良好な改善がみられた。VR介入の良好な結果にはSCTやMLTの理論が有効に作用しているだろう。 SCT理論の自己の成功経験と、MLT理論の注意の外的焦点化と予測不能な多様性練習がVR介入に最も多く採用されていることが示された。このことからVRは主に多様で予測不能な練習において課題志向型で段階学習を提供することで学習の仲介をしていることが示唆された。
 5つのVR介入で異なる仮想的状況ではあるが、代理学習の機会を与えるものとして練習モデルとしての自己、アバタ―、仮想教師などが使われていた。SCTによると、人は他人の観察や模倣によって学ぶとされている。その他人とは同当者でも非同等者でもアバタ―でもよい。観察者に似ていれば似ているほど、模倣の度合いが高まり、学習の可能性も高まる。それゆえVR介入での仮想環境内の自己モデルは代理学習の効果を高め、学習過程を強化できると期待される。
 一つを除きすべてのVR介入で段階的学習が含まれており、自己の成功経験の理論を取り入れている。一つの簡単な課題を達成後、ゲームの難易度を調整することで、より複雑な課題が提供される。段階的学習は少しずつ成功と達成感を得ることができ、究極的に自己効力感を増加させ学習を促進する。VR介入は仮想のシナリオによって課題の難易度を増加させるさまざまな戦略を使うことができる。
 5つのVR介入では視覚的もしくは聴覚的刺激を通して励ましや指示を与えていた。リアルタイムな励ましを与えることでモチベーションと自己効力感が向上し学習が改善される。
 すべてのVR介入は被検者の注意を外的焦点に向けていた。言い換えると被検者の注意は仮想環境内の運動の結果に向いていた。この外的焦点化により学習を促進したと考えられる。
 9つのVRシステムは予測不可能で多様な方法を採用していた。この方法による練習量が新しい状況に適応できる可能性を高め、学習に直接的な影響を与える。多様な練習が新規な状況に適応する可能性を高めるために、学習者が新規で予測不能な課題に直面した時にその保持、転移を促進する。
 7つのVR介入ではリアルタイムの付加的フィードバック(KP、KR)が聴覚、視覚で与えられていた。付加的フィードバックはパフォーマンスのクリアーなイメージを与えることで学習を促進する。二つの研究では自動的に頻度を減らしていた。それにより、外的フィードバックからのエラー情報に頼りすぎることを防ぎ、自己の内的なエラー情報を検索できるようになる。 

結論

 このレビューによって、脳卒中患者の下肢に対するリハビリテーションに適用されるVRは、様々な、予測不能な練習による段階的学習と課題指向型で与えられた学習を主に仲介することが示唆された。

【解説】

 本論文でも述べられているが、VRはコンピュータと人間をつなぐインターフェイスであり、コンピュータの生み出す仮想環境(VE)の中の興味をそそる多様な課題をリアルタイムで安全に体験できる。脳卒中後の再学習に対するVR介入の有望な結果も報告されてきている。VR介入の有効な結果は社会的認知理論と運動学習理論からも裏付けられるとしているが、VRを利用することで現実社会では実現不可能な各種理論を組み合わせた介入も可能となる。ここ数年、機器の進化も加速度的で、Microsoft Kinect1)やOculus Rift2)など、市販のゲーム機器を使用して十分に没入型の仮想環境を体験できるようになってきている。機器の進化と種々の理論を組み合わせ、先進的な治療の開発が期待される。

【参考文献】

  1. Roy AK, Soni Y, Dubey S: Enhancing effectiveness of motor rehabilitation using kinect motion sensing technology. In: Global Humanitarian Technology Conference: South Asia Satellite (GHTC-SAS), 2013 IEEE.IEEE, 2013:298-304.
  2. Hoffman H: Keynote speaker: Digital fear and pain control and the Oculus Rift: SnowWorld, SpiderWorld, and world trade center world. In: Virtual Reality (VR), 2014 iEEE. IEEE, 2014:xvi-vi.

2014年06月02日掲載

PAGETOP