脳卒中患者の下肢に対するリハビリテーションに使われるバーチャルリアリティ(VR)による介入を確認し、その根底にある訓練メカニズムを社会的認知理論(SCT)や運動学習理論(MLT)の枠組みを使って説明することを目的とする。
それぞれのVR介入の基礎となる理論の説明は、SCTとMLTの理論を用いた。SCTの要点は自己効力感であり,自己効力感は目標とする行動を達成、学習することと直接的に結びついている。自己効力感は代理学習、自己の成功経験、言語的説得を通して強化される。代理学習とは他の人の行動を観察し模倣することを通じて学習することである。他人がある課題を成功裏に成し遂げるのを観察することは観察者にとってもその課題を成し遂げられるとの自己効力感をもつことができる。模倣することは観察者とモデルをより詳細に比較するのに効果的である。自己の成功経験の理論は課題を行うことを通して学習するプロセスである。一度簡単な課題を達成したら、より難しい課題を与える。特定の課題を行う中で改善ができたら、その課題を通して達成感を得ることができるだろう。言語的説得はある課題を行っている学習者に励ましと支持を与える。
MLTは練習や経験の直接的な結果として、ある課題を行う能力が比較的永続的に変化することを導く一連の内的過程と定義されている。その過程は獲得、保持、転移の3つに分けられる。獲得の過程の指標はパフォーマンスレベルであるが、保持、転移の指標は課題の学習レベルである。例えば、研究室内で歩けるのが獲得レベル、後でもう一度歩けるのが保持レベル、コミュニティの中で歩けるのが転移レベルである。MLTによれば練習の中では主に注意の焦点、実施の順序と予測性、付加的フィードバック、フィードバックの削減などが学習を仲介している。注意の焦点は外的焦点と内的焦点。順序と予測性は予測可能なブロック練習もしくは一定の練習と予測不可能なランダム練習もしくはさまざまな練習に分けられる。一定の練習は同じ活動を一定の順番でくりかえす。可変練習は異なる活動を予測不可能なランダムな順番で繰り返す。予測不可能な可変練習は一般的に他方よりも運動学習、保持、転移を増進するのに有効である。新規な予測不能の状況に適応する能力を獲得するのにそれぞれの練習の中での比率は直接的に影響を与える。付加的フィードバックにはknowledge of performance (KP)とknowledge of result (KR)がある。例えば動きのパターンについての修正を行うフィードバックはKP。どっちも重要であるが、頻繁なフィードバックはネガティブな影響を与える。なぜなら外的なフィードバックに頼ってしまい、自らの内的なフィードバックを受け取れなくなるから。学習者のパフォーマンスが改善していくにつれてフィードバックを減らしていくと適切な学習が得られる。