慢性心不全患者における高強度インターバルトレーニング:プロトコルの最適化

Philippe Meyer, Eve Normandin, Mathieu Gayda, Guillaume Billon, Thibaut Guiraud, Laurent Bosquet, Annick Fotier, Martin Juneau, Michel White, Anil Nigam. High intensity interval exercise in chronic heart failure: Protocol optimization. Journal of Cardiac Failure; 18(2) 2012, 126-133

PubMed PMID:22300780

  • No.1407-1
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年7月1日

【論文の概要】

背景

 慢性心不全(CHF)患者に対する運動療法は、持続的で中等度の強度での有酸素運動が中心であるとされてきた。近年、心疾患患者に対するより高強度でのインターバルトレーニング(HIIE)が、持続的有酸素運動よりも効果的であると報告されている。しかし、CHF患者に対するHIIEプロトコルはほとんど報告されていない。

目的

 4つの異なる条件で実施したHIIEプロトコルの心肺系の急性効果を比較し、最適なプロトコルを示すことを目的とした。

対象

 安定期にある男性慢性心不全(収縮不全)患者20名を対象とした。対象の年齢は44-80歳、左室駆出率の平均は27.9%であった。

方法

 研究デザインはクロスオーバー研究で、4種類の異なるHIIEプロトコルでの心肺系の急性効果を検討した。HIIEプロトコルの実施に先立ち、呼気ガス分析併用下でエルゴメータを用いた最大運動負荷試験により最高酸素摂取量の測定を行った。HIIEはA・B・C・Dの4つのプロトコルでのトレーニングを呼気ガス分析併用下でエルゴメータを用いて実施した。4つのプロトコルの実施順序はランダム化した。4つすべてのプロトコルの運動強度は最高酸素摂取量測定時の最大運動とした。運動持続時間はA・Bが30秒、C・Dが90秒とした。また、回復期の運動負荷はA・Cが受動的運動、B・Dが最大運動の50%での運動とした。中心となる分析項目は、最大運動負荷試験結果およびHIIEプロトコル実施中の全運動時間と運動所要時間であった。運動所要時間は、HIIEプロトコル実施中に酸素摂取量の換気閾値および最高酸素摂取量の85%・90%・95%・100%をそれぞれ上回る運動の実施時間を算出したものである。

結果

 HIIE実施中、最高酸素摂取量の90%・95%・100%を上回る運動を実施した時間は、Aが他の3つのプロトコルに比較して有意に短かった。酸素摂取量の換気閾値および最高酸素摂取量の85%を上回る運動の所要時間は4つのプロトコルすべてで同様の結果となった。
 全運動時間は回復期の運動負荷により有意差を認めた。回復期の運動負荷が受動的運動であったA・C各プロトコルの全運動時間[秒]はA:1651±347、C:1574±382であったのに対し、最大出力の50%での運動であったB・D各プロトコルの全運動時間[秒]はB:986±542、D:961±556であり、回復期の運動負荷が受動的運動であったほうが全運動時間の延長を認めた(p<0.05)。すべての条件で運動は安全に実施された。

考察

 安定期の慢性心不全患者に対して最大運動負荷を用いたプロトコルは報告が少ない。回復期の運動強度を受動的運動としたほうが、より長い全運動時間を得られたのは、回復期にクレアチン燐酸の再合成がよりおこりやすかったからではないかと推察される。
 このため、運動持続時間が短く、回復期に受動的運動を用いたAのプロトコルが今回実施した4つのプロトコルの中では最も優れている。
 しかし、今回の研究では対象者数が少ないため、より大人数での検討が必要である。また、対象が若く、すべてのCHF患者に適応できるわけではない。さらに、今回の研究はあくまで4つのプロトコルでの急性効果の比較である。以上より、より大規模で無作為化された集団を対象とし、これらのプロトコルの耐久性などに与える影響を調査するべきである。

【解説】

 2013年、American Heart Association(AHA)は“Exercise Standards for Testing and Training”1)において耐久性トレーニングの運動強度を自覚的運動強度(RPE)12~16とした。本邦では、有酸素運動の運動強度は自覚的運動強度(Borg指数)で10~13レベルが望ましいとされている2)。より強度の高い負荷での運動を推奨する背景のひとつにHIIEを含む、インターバルトレーニング※の報告が増えてきていることがうかがえる3)4)
 患者に対する運動負荷は、インターバルトレーニングなど理学療法士の工夫によってより柔軟に、より患者にフィットしたものになっていかなくてはならないだろう。
 ※インターバルトレーニング:高強度と低強度の運動を交互に繰り返すトレーニング方法とされており、最高酸素摂取量の増加、左室リモデリングの予防、血管拡張能の改善などの効果があるとされている3)

【参考文献】

  1. Gerald F. Fletcher, Philip A. Ades, et.al. : Exercise Standards for Testing and Training : A Scientific Statement From American Heart Association. Circulation 2013; 128:837-934
  2. 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)
  3. Wisloff U., Stoylen A. et.al. : Superior cardiovascular effect of aerobic interval training versus moderate continuous training in heart failure patients : a randomized study. Circulation 2007; 115:3086-3094
  4. Thibaut G., Martin J., et. Al. : Optimization of high intensity interval exercise in coronary heart disease. Eur J Appl Physiol 2010; 108:733-740

2014年07月01日掲載

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