急性期脳血管障害患者に対するフィジオボールと座位での体幹エクササイズの比較

Karthikbabu S, Nayak A, Vijayakumar K, Misri Z, Suresh B, Ganesan S, Joshua AM.
Comparison of physio ball and plinth trunk exercises regimens on trunk control and functional balance in patients with acute stroke: a pilot randomized controlled trial.
Clinical Rehabilitation 25: 709-719, 2011.

PubMed PMID:21504955

  • No.1407-2
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年7月1日

【論文の概要】

背景

 脳血管障害患者において、体幹を制御する能力は安定したバランス能力を獲得するための基盤となる。フィジオボールでのエクササイズは、姿勢の動揺によって姿勢保持のために筋が応答し、台座上でのエクササイズよりも体幹筋が潜在的に活性化する1)。健常者では、フィジオボールを用いた体幹のエクササイズが体幹筋活動を大きく高めることが示されており、脳血管障害患者にもこの有益な効果が得られる可能性がある。

目的

 本研究の目的は、急性期脳血管障害患者における体幹の制御やバランスについて、フィジオボールと座位での体幹エクササイズの効果を比較検討することである。

方法

 デザインは調査者を盲検化した無作為化比較試験とした。対象は急性期脳血管障害患者30例(発症後期間は平均12日)とした。取り込み基準は初発の脳出血あるいは脳梗塞の患者であり、座位が30秒間保持できるものとした。患者をフィジオボールで練習を行う群(実験群)と、台座で練習する群(対照群)に無作為に分類した。両群とも一般的に実施される急性期理学療法に加え、1日1時間の体幹エクササイズ(4回/週、3週間)をうけた。体幹エクササイズは、背臥位と座位において上下部体幹の課題特異的な運動とした。背臥位での練習は、ブリッジ、片側ブリッジ、上下部体幹の屈曲・回旋運動とし、座位での練習は、下部体幹の選択的な屈曲・伸展運動、上下部体幹の側屈運動と回旋運動、重心移動練習、前方と側方へのリーチ動作とした。エクササイズは中等度の介助から開始し、徐々に介助なしへと移行した。エクササイズの反復回数は患者の能力に基づいてセラピストが調整し、運動強度は以下の基準から漸増した;①支持基底面の縮小、②応力中心距離の増加、③バランスの改善、④保持時間の増加。効果判定のための指標には、Trunk Impairment Scale(TIS)とBrunel Balance Assessment(BBA)を用い、治療前後に評価した。

結果

 両群の患者属性や治療前のTIS、BBAスコアに有意差はなかった。治療前後のTIS、BBAスコアの変化量を群間比較した結果、実験群のTISトータルスコアが有意に向上した。TIS下位項目では、動的座位バランスと協調性において実験群が有意に改善した。BBAはトータルスコアと、ステッピングの項目が実験群で有意に改善した。

考察

 本研究は課題特異的なシステムと生態学的な運動制御理論を取り入れた治療テクニックである。課題特異的な体幹エクササイズは体幹制御を改善させ、フィジオボールによる不安定さのために体幹筋がより活動したことが示唆される。本研究の興味深い知見は、フィジオボールでの体幹エクササイズが、立位やステッピングのようにバランス能力に対して持ち越し効果をもたらしたことである。運動制御は身体の近位部から遠位部に波及することは、神経発達学的な原則のひとつである。体幹は身体の中心をなす重要な部位であり、身体中心となる体幹の制御は、遠位となる肢の運動制御やバランス、移動能力における前提条件となる。それゆえ、体幹の制御の改善が立位やステッピングなどに影響したと考えられる。以上から、急性期脳血管障害患者に対する動的座位バランスや体幹の協調性、機能的なバランスの改善には、本研究の治療が臨床的に有用であるといえる。
 本研究の限界として、症例数が少なく、単施設での検証であること、持ち越し効果についてフォローアップ期を設けていないこと、体幹筋活動の筋電図学的分析をしていないことなどが挙げられる。今後、こられの課題を考慮し、体幹への治療効果を検証していく必要があると考えられる。

【解説】

 本論文は、不安定条件であるフィジオボールと安定条件である台座上での体幹のエクササイズの効果を比較し、フィジオボールによる体幹エクササイズが体幹機能やバランスをより改善させることを示している。一方、エクササイズ導入段階では介助下で実施されており、また反復回数の設定が治療者の判断にゆだねられている。これらの点は、治療の一般化や再現性についての疑問をのこし、治療効果に対するセラピスト間での技術や経験等の影響が排除しきれない。
 脳血管障害後の体幹機能は、歩行や日常生活動作などの予後に影響する重要な因子であることは明らかである。近年では、システマティックレビューにより脳血管障害患者の体幹への治療は、中等度の効果があることが示されているものの、解析対象はほとんどが亜急性期以降のものである2)。本論文は脳血管障害後の体幹機能障害に対し、最も早期に実施された介入研究であり、その意義は大きいと思われる。今後、急性期における体幹機能に対する治療の確立にむけ、さらなる報告が期待される。

【参考文献】

  1. Liggett Ca, Randolph M: Comparison of abdominal muscle strength following ball and mat exercise regimens: a pilot study. J Man Manip Ther. 7: 197-202, 1999.
  2. Cabanas-Valdes R, et al: Trunk training exercises approaches for improving trunk performance and functional sitting balance in patients with stroke: a systematic review. NeuroRehabilitation. 33: 575-92, 2013

2014年07月01日掲載

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