股関節・膝関節置換術後の入院リハビリ期間が延長するリスクの予測

Leonie B. Oldmeadow, M.Clin Ed, Grad Dip Physio, Helen McBurney, PhD,B App Sc (Physio), Valma J. Robertson, PhD, B App Sc (Physio). Predicting Risk of Extended Inpatient Rehabilitation After Hip or Knee Arthroplasty. The journal of Arthroplasty Voi.18 No.6 2003.

PubMed PMID:14513453

  • No.1408-2
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年8月1日

【論文の概要】

背景

 股関節・膝関節置換術後の入院期間は近年短縮されてきているが、これには回復期施設への転院数の増加が関係している。自宅に退院するか回復期施設へ転院するかの判断は、術後の経過が一様でないにも関わらず、術後早期に決定することが求められる。こうした判断をする上で、妥当性と信頼性があり退院先を予測できる方法は、患者・病院施設双方の助けとなるだろう。

目的

 股関節・膝関節置換術患者の入院リハビリの継続が必要となるリスクを、入院時又は入院前に簡便に予測できる方法を開発、その妥当性を検証すること。

対象と方法

 対象は1998年縲鰀2000年にメルボルンの公立病院に、股関節・膝関節置換術を目的に入院した患者730症例(410股、320膝)、このうち国立病院や個人病院への転院、合併症により入院したもの、不完全データ、死亡例、計80例を除外した。除外後の650例を2群に分け、1998年1月縲鰀2000年2月に入院した520症例(試行群)で評価法を開発し、2000年3月縲鰀2000年12月に入院した130症例(検証群)でその妥当性の検証を行った。患者属性は年齢が試行群71.7±9.0、検証群68.7±9.52歳、女性の割合は試行群50.5%、検証群58.5%で両群に差は無かった。収集データは年齢、性別、術前歩行可能距離、術前歩行補助具使用有無、合併症の有無、地域サービス利用の有無、介護者の有無、環境、患者の退院先の希望の9項目で、聴取にて収集された。収集項目は、臨床家へのインタビュー、先行研究から検討され、最終的に臨床上よく用いられていて、術前に簡単に収集でき、術後の経過とは関係のない項目が選択された。分析では、9項目と退院先の関連をX2検定、又は対応のないt検定にて分析した。この結果有意な関連を認めた項目をロジスティック回帰モデルに投入した。回帰モデルから退院先の予測を行い、実際の結果と比較し予測率を算出した。さらに各項目のオッズ比と臨床有用性に従って得点の重み付けを行い、Risk Assessment and Prediction Tool (RAPT) を作成した。その後、検証群でRAPT得点と予測される退院先を算出し、実際の退院先と比較した。

結果

1)退院先と入院期間
両群の44.5%がリハビリ施設へ転院、55.5%が自宅へ退院した。入院期間は直接自宅に退院した群で平均9.3日(中央値9日、4~28日)、入院リハビリを必要とした転院群で10.6日(中央値10日、4~41日)であった。
2)評価モデルの開発
単相関分析の結果、年齢、性別、術前歩行可能距離、歩行補助具の有無、地域サービス利用の有無、介護者の有無、患者の退院先の希望、の7項目が退院先と優位な関係にあった(P<0.001)。その他の2項目(合併症p=0.28、環境p=0.30)は評価項目から除外された。有意な関連を認めた7項目がロジスティック解析にかけられ、予測率は83%だった。「患者の退院先の希望」が最もオッズ比が高かったが(オッズ12.94;95%信頼区間,7.65-21.89,P<0.0001 )、他からの影響が大きいと考えられ除外することとした。除外後の6項目でも予測率は75.2%(X2=161.49  P<0.001)と一定の値を維持していた。オッズ比から重み付けを整数で行い、3項目(年齢、歩行可能距離、歩行補助具)はそれぞれ3つのレベルに分け、最大得点12点のRAPTを完成させた。
3)妥当性の検証
この評価法を検証群に用いた。130症例中4症例がデータ不完全で除外され、126例中94例の退院先を正しく予測でき、予測率は74.6%(X2=44.26;P<0.001)であった。予測できなかった32症例のうち29症例は自宅退院が予測されたにも関わらず回復期施設へ退院し、3症例はリハビリ継続が必要と判断されたにも関わらず自宅へ退院した。この32例を分析すると対象関節の違いはほとんどなく(股関節28%vs膝関節24%)、そのほとんどが6~9点群に集中している。全症例の評価から>9点は自宅退院、<6点は回復期施設への転院、6~9点では術後介入によって退院先が変化すると言える。

考察

 本研究では、下肢関節置換術後の退院先を術前に予測する評価方法を開発、妥当性の検証を行い、RAPTと名付けた。先行研究で示された評価法では自宅か転院かの二者択一であったが、RAPTでは新たに3つ目に退院先が不確かなグループが判明した。この群に積極的に介入すれば、自宅退院率は上がる可能性も考えられ、さらなる研究が望まれる。また、他疾患の存在や環境が退院先に影響しないことがわかった。患者の意向は試行群では退院先と大きく関係があることがわかったが、患者や介護者の予後に対する認識の仕方に左右されるところもあり、評価項目から除外したが、それでも高い予測率が維持できた。妥当性を検証した結果、6~9点群において医学的には問題ないにも関わらず、38%がリハビリ施設への転院を選択している。もしこれらの患者がもっと自宅退院に自信が持てれば、このグループでの自宅退院率は上がる可能性があり、客観的な評価がその一助となるだろう。RAPTによる予測と患者意向の差を埋めるために、情報提供と事前準備が必要と考えられ、そこで入院前評価時に得点から予測される退院先と、患者意向について検討してもらい、合意に至った退院先を記載できるようにした。最後に、本研究は単一施設での分析であるため、今後は他施設間で検証していく必要がある。

【解説】

 本論文では、股関節・膝関節置換術後、直接自宅に退院するか、回復期施設に退院するかを予測する評価法を開発し、その妥当性の検証を行っている。急性期病院から自宅に直接退院できるかどうか、つまり、リハビリが急性期病院で完結できるのか、それともさらに必要になるのか、というリハビリ期間の延長を予測するものである。医療制度の違いはあるが、本邦でも同様に在院日数への関心は高まっている。またそうした背景の中、本論文の評価法のように客観的で信頼性のある評価法は本邦にも有用だと考えられる。早期にリハビリ期間の延長が予測できれば、早期に転院・退院準備を開始することができ、医療の効率化を図れる可能性がある。しかし、本論文では最初の9項目の選択基準が曖昧である、再現性が確認されていない、単一施設での調査である、といった問題点もあるため今後の検証が期待される。

【参考文献】

  1. Leonie B. Oldmeadow, MClinEduc, Helen McBurney, PhD, Valma J. Robertson, PhD, Laura Kimmel, BApplSc, Barry Elliott, FRACS.Targeted Postoperative Care Improves Discharge Outcome After Hip or Knee Arthroplasty. Arch Phys Med Rehabil. 2004 Sep;85(9):1424-7.
  2. Leonie B. Oldmeadow, Helen McBurney, Valma J. Robertson. Hospital stay and discharge outcome after knee arthroplasty: Implications for physiotherapy practice. Australia Jurnal of Physiotherapy 2002;48(2):117-21.

2014年08月01日掲載

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