入所している認知症患者の有酸素運動と筋力強化運動を組み合わせた訓練プログラムの実現可能性とその認知・身体機能面での効果について

Bossers WJ, Scherder EJ, Boersma F, Hortobagyi T, van der Woude LH, van Heuvelen MJ:Feasibility of a combined aerobic and strength training program and its effects on cognitive and physical function in institutionalized dementia patients. A pilot study. PLoS One. 2014;9(5):e97577.

PubMed PMID:24844772

  • No.1411-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2014年11月1日

【論文の概要】

背景・目的

 認知症は、認知機能面だけではなく、身体機能面も衰退がみられる疾患である。身体活動(Physical activity)は、認知症患者さんの認知面や身体機能面をプラスに向上させる治療法として好意的に捉えられているが、現状ではまだ有効な指標はなく、また継続した遂行可能な運動プログラムも模索中である。そのため、今回は施設入所している中等度の認知症患者に6週間の継続した個々の運動プログラムを実施し、介入前後の認知機能面・身体機能面の変化や、またSocial群(運動非介入群)との比較検討をした。

方法

 施設に入所している78名の認知症患者さんのうち、全評価項目を遂行でき、かつ継続して介入を実施できた33名の認知症患者を対象とし、17人の運動介入群と16人のSocial群に振り分けた。運動介入群は、継続した6週間(週に5回、1回30分)に有酸素運動と筋力強化運動を組み合わせた運動を実施して、個々のフォーマットを管理し、運動介入前後の評価も全て行えた。一方、Social群も運動介入群と同様に同頻度、椅子に座って雑談を行った。評価も運動介入群と同様に前後で実施した。介入前後の評価項目としては、認知機能検査と身体機能検査を実施した。認知機能検査項目は、ミニメンタルステート検査、視覚認知検査、言語記憶検査、遂行能力検査の12項目を実施した。また身体機能検査は、歩行耐久性、下肢機能評価、運動性評価、バランス評価の計8項目を実施した。

結果

 患者さんの属性としては、平均年齢、性別、歩行補助具の使用、ミニメンタルステート検査で、運動介入群とSocial群間に差はなく、似たような属性で本研究は比較検討することができた。ちなみに、ミニメンタルステート検査は、平均16.8±4.0で中等度の認知低下を呈する患者さんが対象であった(9点以下の重度の認知低下を呈する患者さんは研究対象から除外された)。
 運動実行率は、運動介入群で86%と高い参加・運動継続率を示した。よって、今回の運動プログラムは患者さんにとって肉体的・精神的に負担の少ない実行しやすいものであったことが言える。
 認知機能検査では、介入前後の評価結果および、運動介入群とSocial群の間に有意な差はみられなかった。統計学上の有意な差はみられなかったが、運動介入群は全項目において介入前よりも認知機能が悪化することはなく、むしろミニメンタルステート検査を除く全認知評価項目において改善傾向を示した。Social群は、言語記憶検査、遂行能力検査では改善傾向を示したが、ミニメンタルステート検査や視覚認知検査項目では悪化傾向にあった。
 身体機能検査では、歩行速度(p=0.003)、6分間歩行テスト(p=0.031)、等尺性四頭筋力(p=0.012)で運動介入群がSocial群に比べて改善率が有意に高かった。また、運動介入群はすべての身体機能評価項目において介入前より介入後の評価で良好の結果が得られた。また、バランス評価よりも歩行に関連する評価項目(6m歩行速度や6分間歩行距離)でより良い成績がみられた。

考察

 今回のプロトコールにおいて、遂行率(実現可能率)は運動介入群で86%、Social群で93%ととても高い値を示し、患者さんにとっては精神的・肉体的に負担少なく継続して実施可能なプログラムであったことが言える。特に、認知症の患者さんは、無気力や易興奮性などの問題があるので、継続して実施することは導入も難しい場合が多い。しかし、今回の研究は患者さんそれぞれで個別に対応することで高い遂行率をあげることができた。
 また、今回車椅子の患者さんは、歩行訓練や下肢筋力強化などが実施できないために除外したが、今後はこのような患者さんに対しては上肢の運動プログラム等を実施できたら、より良いものになる可能性を秘めている。
 今回の結果では、認知機能評価では6週間の運動介入による有意な改善は得られなかった。しかし、運動と海馬(脳の認知機能を司る中枢)と関連があるとの論文はいくつもあり、現に、運動介入群では有意差はないものの、全ての認知機能評価項目で改善の結果が得られたので、もし対象人数を増やしたり、介入期間をより長くしたら、より良い結果を得られる可能性は考えられる。また、運動機能面では、先行研究と同じく良好な結果を得ることが出来た。運動機能面と認知機能面が関連しており、運動することによって認知機能面も向上するとの報告もあるが今回はこのような結果には至らなかった。介入期間や運動介入方法等、検討課題はある。

まとめ

 今回、施設に入所している認知症患者さんに有酸素運動と筋力強化運動を組み合わせた運動介入を行い、高い遂行率(実現可能性率)を示した。また、認知機能面では特に視覚認知機能面での改善がみられ、運動機能面では移動機能面での改善がよりみられた。これらの結果は、今後の臨床研究への足がかりとなるだろう。

【解説】

 本研究は、施設に入所している認知症患者さんのパイロットスタディ(小規模な予備的研究)である。しかし、認知機能面での検査項目は12項目、身体機能面での検査項目は8項目(歩行や筋力、バランスや耐久性等、多方面の評価項目)を全患者さん介入前後で評価しており、その面から得られる評価結果は、認知症患者さんの身体特性を捕らえるのに有益な情報であると考える。今回は、6週間継続して、患者さん個別に運動プログラムを実施しており、途中棄権者(辞退者)も少なく、認知症患者さんに対する運動の動機づけ、継続して実施する持続性の維持の高さは、実験系としては成功であったと思う。今回の結果で、運動介入前後で認知機能面に統計上での有意な有益性はみられなかったが、改善傾向は示しており、運動プラグラムの内容の見直しや対象人数の増加により、今後の期待がもてる。
 また、認知症患者さんの疾患でも厳密に分類すれば脳血管障害性やアルツハイマー型等、臨床上での病状の特色が異なるので、今後、疾患の属性毎の介入方法の工夫や介入の効果の差等を検討できれば、今後確実に増えてくる認知症を呈した患者さんへの運動療法プログラム実施にあたってのより良い指標になるのではないかと考えられる。

【参考文献】

  1. Perri R, Monaco M, Fadda L, Caltagirone C, Carlesimo GA (2013) Neuropsychological correlates of behavioral symptoms in Alzheimer's disease, frontal variant of frontotemporal, subcortical vascular, and lewy body dementias: A comparative study. J Alzheimers Dis 39: 669-€677.
  2. Nation DA, Hong S, Jak AJ, Delano-Wood L, Mills PJ, et al. (2011) Stress, exercise, and Alzheimer's disease: A neurovascular pathway. Med Hypotheses 76: 847-€854.
  3. Yaguez L, Shaw KN, Morris R, Matthews D (2011) The effects on cognitive functions of a movement-based intervention in patients with Alzheimer's type dementia: A pilot study. Int J Geriatr Psychiatry 26: 173-181.

2014年11月01日掲載

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