筋筋膜性疼痛症候群に対するパルスモードと連続モードの超音波療法の効果(ランダム化比較試験)

Ilter L, Dilek B, Batmaz I, Ulu MA, Sariyildiz MA, Nas K, Cevik R:Efficacy of Pulsed and Continuous Therapeutic Ultrasound in Myofascial Pain Syndrome : A Randomized Controlled Study.American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation. 2014 Oct 8. [Epub ahead of print]

PubMed PMID:25299534

  • No.1412-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2014年12月3日

【論文の概要】

背景

 筋筋膜性疼痛症候群(MPS)は疼痛、筋スパズム、知覚過敏、動作制限、筋力低下を特徴とした疾患である。加えてMPSでは高感度のポイント(トリガーポイント)がみられ、これらのトリガーポイントや筋硬結は、ストレッチ、リラクゼーション、表在や深部の加熱、レーザー治療、トリガーポイントの注射などで緩和することができる。超音波治療もMPSには有効とされているが、周波数や刺激強度などの基準は明らかになっておらず、治療条件をシステマティックに検討した報告はみられない。

目的

 本研究の目的は、MPSに対する超音波療法の治療効果を刺激条件の違い、連続照射、パルス照射、プラセボで比較検討することである。効果の評価項目は疼痛、筋スパズムの程度、頚部の機能、生活の質、抑鬱とした。

方法

 対象は2012年4月から2013年5月までにDicle University School of Medicine Department of Physical Medicine and Rehabilitationへ申し込んだ60人の患者(18歳~60歳)とした。MPSはTravellとSimonsの基準を元に診断された。研究は二重盲検になるように、実験計画者、グループ分けを行う者、治療を行う者、評価を行う者をそれぞれ違う研究者が行った。グループ分けは乱数表を使用して、group A:3MHzで1W/cm2の連続照射を行う群、group B:3MHzで1W/cm2のパルス照射(1:1の割合)を行う群、group C:プラセボ群(機器の電源を切って行う)にそれぞれが20名になるようにランダムに振り分けた。治療は週5日で2週間行われ、超音波治療はトリガーポイントを中心に回転法で5分間実施した。全ての患者は基本的なストレッチと関節可動域訓練、10分間のホットパックを実施した。鎮痛薬が必要な患者にはアセトアミノフェンの服用を許可した。評価は治療前後に行い、同様の評価を6週後と12週後に行った。
 疼痛の評価にはvisual analog scaleを、筋スパズムの程度には睆e-step scaleを、心理状態の評価にはBeck Depression Inventoryを、生活の質の評価にはNottingham Health Profileを、機能評価にはNeck Pain and Disability Scaleをそれぞれ使用し、患者満足度も同様に5段階の指標で評価した。
 統計処理はSPSS 21.0 for Windowsを使用して、3群間の比較にはKruskal-Wallis検定とFriedman検定を行い、2群間の比較にはMann-Whitney U検定とWilcoxon検定を行い、全てにおいて有意水準は5%以下とした。

結果

 最初の対象者は77名で3群に分けていたが、治療後のフォローアップの段階で17名が継続できなかったため最終的には60名で分析を行った。対象の各グループ間では、性別、年齢、痛みの期間、教育歴、職業において有意差がみられなかった。
 疼痛のスコア、筋スパズムの程度、頚部機能評価、生活の質については、全てのグループにおいて治療後、6週後、12週後で有意な改善がみられた。心理状態の評価ではプラセボ群で有意な改善がみられなかった。加えて心理状態のサブパラメーターである社会的隔離と患者満足度については全てにおいて有意な改善はみられなかった。安静時痛では、ベースラインと比較した改善度で比較すると、連続照射群がパルス照射群とプラセボ群よりも有意に大きくなっていた。しかし、その他の項目で有意な差はみられなかった。

考察

 MPSの病因はまだ解明されておらず、主な治療は症状に対する対処療法である。超音波療法は温熱効果や生体物理学的効果を期待して良く使用される。Kisaogluらは超音波が筋膜性疼痛を減少させ、組織反応を改善して疼痛スコアを減少させたと報告している。Esenyelらは超音波と局注を組み合わせた頚部ストレッチ運動がコントロールグループよりも有意に改善したが、各治療の優位性は明らかにされなかったと報告している。他の報告では超音波療法のグループとプラセボグループで効果に違いがみられなかったとしている。今回の研究では全ての痛みに関して全てのグループで治療後の改善がみられた。また、安静時痛に関しては連続照射のグループが他のグループよりも有意に大きく改善していた。しかしながらその他の、生活の質、動作時痛、筋スパズムの程度、に違いはみられなかった。これらはトリガーポイント周囲のプローブによるマッサージ効果、ホットパックやストレッチなどの治療効果、または環境などによるプラセボ効果によるものかもしれない。

【解説】

 本研究は、筋筋膜性疼痛症候群に対する超音波療法の効果を、刺激条件の差で比較検討したRandomized Controlled Studyである。実験プロトコールは2重盲検で良く計画されており、各担当者を明記するなど参考になる点が多いと考える。また、治療内容もより有効と考えられる方法を実行しており、単に方法の違いを比較するだけでなく治療方針を統一する点も参考になると思える。即時効果だけではなく、6週間、12週間後の比較的長期間の変化も検討している点は、治療の有効性を示す上では説得力が増すかもしれない。しかし、筆者が考察の最後に述べているが、長期の比較になると日常生活上の活動が影響する可能性があり、因果関係を示すことが難しくなると思え、今後の検討課題となろう。
 物理療法のエビデンス、特に痛みに対する効果を客観的に示すことは難しいことが多く、治療条件の違いを比較するのは更に難しくなることを考えれば、今回の研究は意欲的だと考える。しかしながら、より有効な治療を行う上で条件設定は必須であり、このような研究が増えることを期待したい。

【参考文献】

  1. Srbely JZ, Dickey JP: Randomized controlled study of the antinociceptive effect of ultrasound on trigger point sensitivity: Novel applications in myofascial therapy? Clin Rehabil 2007;21:411-7
  2. Gam AN, Warming S, Larsen LH, et al: Treatment of myofascial trigger points with ultrasound combined with massage and exercise: A randomized controlled trial. Pain 1998;77:73-9
  3. Nice DA, Riddle DL, Lamb RI, et al: Intertester reliability of judgments of the presence of trigger points in patients with low back pain. Arch Phys Med Rehabil 1992;73:893-8

2014年12月03日掲載

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