亜急性期の脳卒中患者におけるHANDS療法の効果(ランダマイズされた比較試験)

Shindo K, Fujiwara T, Hara J, Oba H, Hotta F, Tsuji T, Hase K, Liu M:Effectiveness of Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation Therapy in Patients With Subacute Stroke: A Randomized Controlled Pilot Trial.Neurorehabil Neural Repair. 2011 Nov-Dec;25(9):830-7.

PubMed PMID:21666139

  • No.1502-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年2月2日

【論文の概要】

背景

 上肢機能回復の大部分は脳卒中発症後6カ月以内に起こると考えられており、その回復の量は非常に限られている。麻痺側上肢の機能回復には、スプリントや電気刺激装置、筋電計を利用した神経筋刺激装置と機能的電気刺激の有効性が示されている。しかし、これらの装置は日常生活で使用するには制限がある。
 Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation (HANDS) 療法は筋電計でコントロールされた神経筋刺激装置とスプリントを組み合わせて、日常生活で上肢の使用を促進させる新しい治療アプローチである。このHANDS療法の有効性は、慢性期の脳卒中患者に対して3週間実施することで効果が示されているが、さらに有効性を立証するためにはランダマイズされた比較試験が必要である。また、脳卒中発症後60日以内の患者にも有効かどうかも示されていない。

目的

 本研究の目的は、日常生活において手指の動作に障害のある脳卒中患者を対象にして、ランダマイズされた比較試験デザインでHANDS療法の有効性を検証することである。

方法

 対象は2007年から2009年までに Tokyo Metropolitan Rehabilitation Hospitalに入院した脳卒中患者とした。対象者の選択基準は (a)初めてのテント上の脳卒中片麻痺であること (b)発症から60日以内であること (c)20歳から80歳であること (d)表面電極で総指伸筋活動が検出可能であること (e)手指の完全伸展ができず個別の伸展もできないこと (f)他動の関節可動域が手関節伸展0°以上、中手指節関節伸展10°以上であること (g) ミニメンタルステート検査が24点以上であること である。対象者の除外基準は以下のとおりで (a) HANDS療法の妨げとなる半側空間無視や失語症などの著しい認知障害がある (b)著明な感覚障害や痛みがある (c)ペースメーカーや他に移植された刺激装置がある (d)てんかん発作の既往がある (e)他に重篤な医学的症状があるとした。実験期間中に441名の脳卒中患者が評価されたが、前述の基準を満たしたのは24名で各12 名をHANDS群とコントロール群に無作為に分けた。その後3週間介入して最終的に分析できたのはそれぞれ10名ずつであった。
 HANDS療法は、随意運動介助型電気刺激装置(IVES)と手関節固定装具を組み合わせた装置を1日8時間装着し、3週間の訓練だけでなく日常生活でも麻痺手の運動を促す治療である。IVESは自発筋電の振幅に比例してその刺激強度を調節するようになっており、総指伸筋の筋電を感知して総指伸筋を電気で刺激する。コントロール群は同じ手関節固定装具を装着して、両群とも基本的なリハビリメニューを受け、麻痺した上肢を日常生活でできるだけ使うように指示された。
 上肢機能の評価は、Fugl-Meyer Assessment (FMA)、Action Research Arm Test(ARAT)、Motor Activity Log(MAL)、Modified Ashworth Scale (MAS)を使用してそれぞれ治療の前後に行った。FMAの上肢機能は、33項目、0から66点で構成されており、今回の研究では中枢部(肩、肘、およびコーディネート: 42点、 FMA-p)と遠位(手と手首: 24点、FMA-d)に分けて評価した。ARATは、よく使用される信頼性の高い上肢機能評価で4つの小区分があり、最大57点である。MALは、日常生活動作における上肢障害を測定するのに使用される評価法であり、使用量(AOU)と動きの質(QOM)に関する項目がある。MASは、痙性を評価する手法であり、手指、手首、肘についてそれぞれ評価した。FMAとMASは2名の理学療法士が、ARATとMALは2名の作業療法士が評価者となり、対象者がどちらの群に割り付けられているかを知らされずに評価した。
 統計にはMann-Whitney U test、カイ二乗test、Wilcoxon signed rank testを使用して、有意水準は0.05とし、計算にはSPSS version 17.0Jを使用した。

結果

 治療前における群間の比較では、上肢機能評価すべての項目において違いは認められなかった。治療前後で増加した点数を比較すると、FMAはHANDS群の方がコントロール群よりも有意に高い値を示し、特にFMA-dの差が著明であった。また、ARATについては改善の割合を比較するとHANDS群の方が有意に高かった。

考察

 今回の研究で亜急性期の脳卒中患者に対するHANDS療法の有効性が示されたと考える。随意運動介助型の電気刺激は脳の可塑性を促したと考えられ、手関節固定装具は手指の動作を助け、痙性のコントロールに役に立ったと考えられる。麻痺の程度や日常生活における運動量の調査を行っていないことが、今後の課題として考えられる。HANDS療法の実施場面においては特に悪影響は無く患者の受け入れも良いため、標準のリハビリテーションへ付け加えられるかもしれない。

【解説】

 HANDS療法ではバイオフィードバック療法や手関節固定装具など、個別に以前から行われてきたものを統合して治療に使用している。特に日常生活でも使用して長時間の刺激時間を確保する点は、非麻痺側上肢抑制療法(constraint-induced movement therapy)と類似しており、動きを介助することでストレスを少なくできる点に独自性があると思える。441名の対象者が最終的には20名になってしまったことから、亜急性期の比較対照試験の難しさが伺える。統計処理に関しては、データが順序尺度なので仕方ないのかもしれないが、増加の差や割合を比較するのではなく、2元配置分散分析のように直接比較した方が良いように思えた。しかしながら、今回の研究のような比較対照試験はHANDS療法の有効性を示すのに必要であり今後の発展を期待したい。

【参考文献】

  1. de Kroon JR, Ijzerman MJ, Chae J, Lankhorst GJ, Zilvoid G. Relation between stimulation characteristics and clinical outcome in studies using electrical stimulation to improve motor control of the upper extremity in stroke. J Rehabil Med. 2005;37:65-74.
  2. Fujiwara T, Liu M, Hase K, Tanaka N, Hara Y. Electrophysiological and clinical assessment of a simple wrist-hand splint for patients with chronic spastic hemiparesis secondary to stroke. Electromyogr Clin Neurophysiol. 2004;44:423-429.
  3. Shin HK, Cho SH, Jeon HS, et al. Cortical effect and functional recovery by the electromyography-triggered neuromuscular stimulation in chronic stroke patients. Neurosci Lett. 2008;442:174-179.

2015年02月02日掲載

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