高齢者の身体活動とさまざまな転倒リスクの検討―ドイツ南部ウルム地区健常高齢者の結果より

Klenk J, Kerse N, Rapp K, Nikolaus T, Becker C, Rothenbacher D, Peter R, Denkinger MD:Physical Activity and Different Concepts of Fall Risk Estimation in Older People–Results of the ActiFE-Ulm Study. PLoS One. 2015 Jun 9;10(6):e0129098. doi: 10.1371/journal.pone.0129098. eCollection 2015.

PubMed PMID:26058056

  • No.1507-2
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年7月1日

【論文の概要】

背景・目的

 転倒は高齢者の機能障害等を引き起こす主要要因となっており、骨折の起因の5-10%が転倒であり、股関節の骨折に限ってみればその90%以上が転倒によって引き起こされている。乏しい身体パフォーマンス(特に下肢筋力低下やバランスの低下)は、転倒の主要な原因となりうる。一般的な身体活動は、身体パフォーマンスと筋力に関連がある。それゆえに、身体活動が増すと転倒歴も減少すると言われている。しかし、活動性があがることによって反対に転倒のリスクが高まるとの報告もあり、見解はまだ一致していない。
 そのため、今回の研究では地域在住高齢者の身体活動と2つ評価した転倒要因との関係を証明することである。

方法

 ドイツ南部にあるウルム地区に在住する高齢者7624名を無作為に研究への参加を呼び掛けた。その中で、定住したケアを受けている人(在宅での定期的かつ継続的なケアを受けている)や理解に乏しい人、ドイツ語の理解が困難な人は対象外とした。最終的に1506名(最初の19.8%)の方がこの研究に参加した。年齢・性別・転倒歴(少なくとも過去1年間に1回は転倒歴があるか)を自己申告してもらった。転倒への恐怖心は、Short FES-1を用いて評価した。身体パフォーマンスの評価は、握力や下肢筋力を計測した。全員にインフォームドコンセントを行い研究の同意を得、ウルム大学の倫理委員会に承認された研究である。
 身体活動の評価は、activPALを用いた。これは大腿に装着し防水性なので睡眠中や入浴中に装着した状態で計測ができる。連続した7日間(24時間装着を7日間連続)で評価し、1)臥位もしくは座位、2)立位、3)歩行と3つに分類した。これらの活動量から低頻度(0-59分)、中頻度(60-119分)、高頻度(120分以上)の3つのカテゴリーに分けた。
 転倒の頻度は、身体活動評価終了後すぐに開始され12か月間転倒カレンダーを用いて、3か月ごとに報告してもらった(未提出や記入不十分者には電話を行い管理の徹底を行った)。転倒頻度は、1年間で何回転倒したか、歩行100時間ごとの転倒数の2項目を設定した。

結果

 属性は、男性693名、女性521名であった。1/3の対象者が過去1年間に転倒歴があった。日々の身体活動時間は、男性104.9±41.0分、女性103.5±38.9分であった。半分以上の対象者が一日1-2時間の歩行を行っており、1時間以内は13%、2時間以上は30%であった。平均歩行速度は、0.98±0.28m毎分であった。期間中1年間に388名(31.9%)が少なくとも1回は転倒した。対象者の90%以上が少なくとも52週以上は転倒カレンダーの記録を行った。
 1年間の転倒歴と日々の活動量に有意な差はみられなかった。しかし、歩行100時間当たりの転倒数は、活動量の少ない人のほうがより危険性として高くなることがわかった。特に歩行速度の速い人(少なくとも0.8m毎秒以上)で一日2時間以上歩行のあるひとは、有意に転倒率が低かった。また、過去に転倒歴があるひとは過去に転倒歴のないひとと比較し、転倒リスクが高く、また歩行速度の遅いひとも早いひとと比較しリスクが高かった。
 また、65-79歳のひと、過去に転倒歴があり、歩行速度が少なくとも0.8m毎秒の女性は、活動性が高く、時間当たりの転倒リスクが減少することがわかった。

考察

 今回の結果より、活動性の低いひと(歩行が一日一時間未満)は、活動性の高いひとと比較し、有意に歩行時間当たりの転倒の危険性が高いことがわかった。また、歩行速度が遅くかつ活動性の低いひとは、歩行100時間当たりの転倒の危険性もたかいことも示唆された。これらの結果は、特別な活動介入が転倒の危険性を変えられることを示唆しているとも言える。
 いくつかの先行研究より、活動性の高いグループのほうが転倒のリスクが高いとの結果や、反対に活動性の高いほうが、転倒のリスクは減少するとの報告もあり、また身体活動と転倒との有意な相関はないが、過去の転倒と相関はあるとの結果もあり、見解は一致していないのが現状である。我々の今回の結果でも、一年間の転倒に関しては、身体活動と転倒に有意な相関はみられなかった。そこで今回、歩行時間当たりの転倒率を算出した。これは先行研究でも似たようなことをしている。それは、転倒というものは特に移動中、方向転換時や歩行時に起こりやすいものであるからだ。1年間の転倒に関しては相関はみられなくても、歩行時(活動時)の時間当たりの転倒率を算出すると、より広く深い参加や生活の質の向上ということと関連してくるだろう。
 今回の結果より、高い転倒の危険性があるひとは、活動性の低い高齢者で、かつ歩行速度も遅く転倒歴もあることがわかった。

まとめ

 今回は、歩行時間当たりの転倒率を算出し、各因子との相関について検討した。これは、一年間での転倒発生の概念よりもより充実しており、加えて地域在住高齢者の転倒についてはより良い知見を与えることが示唆された。

【解説】

  地域在住高齢者の転倒の危険性について、さまざまな因子・角度から検討された文献である。地域を特定することで長期的な経過をフォローしやすいことが挙げられ、1500名余りもの対象者をフォローできたと思われる。また、一年間の転倒発生率を歩行時間当たりに換算しなおしたことも新しい知見といえる。確かに、活動のない状態(臥床時や座位時)では転倒は起こりにくく、立ち上がり時・方向転換時・移動(歩行)時と活動性のある時に起きやすいものである。その転倒発生の特性を踏まえ、その時間に限って検討したことで、より身体活動と転倒についての関連が深く近いもので検討できたのではないだろうか。
 今回の研究では、ただ一年間の転倒について初期評価時の活動性のデータからの相関をみたものであるので、今後、継時的な身体状態との相関や、定期的な運動習慣の有無等により検討できれば、さらに身体活動と転倒との関係の知見が得られるのではないかと思われる。

【参考文献】

  1. Deandrea S, Lucenteforte E, Bravi F, Foschi R, La Vecchia C, Negri E. Risk factors for falls in community-dwelling older people: a systematic review and meta-analysis. Epidemiology. 2010; 21: 658 – 668.
  2. Tinetti ME, Speechley M, Ginter SF. Risk factors for falls among elderly persons living in the community. N Engl J Med. 1988; 319: 1701 – 1707.
  3. Voukelatos A, Merom D, Sherrington C, Rissel C, Cumming RG, Lord SR. The impact of a home-based walking programme on falls in older people: the Easy Steps randomised controlled trial. Age Ageing.2015;44(3):377-83.

2015年07月01日掲載

PAGETOP