肩峰下インピンジメント症候群に対するホームエクササイズとセラピスト管理下の運動療法の効果は同等である:ランダム化試験による検討

Granviken F, Vasseljen O: Home exercises and supervised exercises are similarly effective for people with subacromial impingement: a randomised trial. J Physiother. 2015;61(3):135-41.

PubMed PMID:26093810

  • No.1509-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年9月1日

【論文の概要】

背景

 肩関節は障害を起こしやすい関節の一つである。肩関節痛の経過は様々であるが,41%の症例では,1年後も何らかの症状が継続すると報告されている。肩関節痛を呈する症例のうち,30-86%に,肩峰下インピンジメント症候群が認められるとされている。肩峰下インピンジメント症候群の治療については,体外衝撃波や超音波は効果が低いこと,観血的治療とセラピスト管理下の運動療法の効果は同等であることが報告されている。一方,ホームエクササイズとセラピスト管理下の運動療法の効果については,有意な差を認めなかったとの報告もある。

目的

 肩峰下インピンジメント症候群の疼痛と能力障害に対する,ホームエクササイズとセラピスト管理下の運動療法の効果が異なるか検証すること。

方法

 対象は,インピンジメント症候群を呈し,大学病院に通院する46症例とした。取り込み基準は,18-65歳で12週以上継続する片側の肩関節痛を呈する者とした。また,3つの整形外科的テスト(有痛弧サイン,棘下筋テスト,Howkins-Kennedyサイン)がすべて陽性の者とした。なお,肩鎖関節や関節唇に問題のある症例は除外した。対象者をホームエクササイズ群と,セラピスト管理下の運動療法群に23名ずつ振り分けた。
 両群ともに,肩関節の正常な運動を再構築し,日常生活活動に般化することを目的に,先行研究の治療原則に基づいて介入を行った。ホームエクササイズ群は,初回のみセラピストの管理下で運動療法を実施し,その後6週間のホームエクササイズを実施した。管理下の運動療法群は,6週間のホームエクササイズに加え,10回のセラピスト管理下の運動療法を実施した。また,各症例の症状に応じて,26週間までの治療の継続を,対象者に選択させた。
 エクササイズの内容は両群で共通とし,肩甲骨の安定化エクササイズ,ローテーターカフトレーニング,疼痛の無い範囲での関節可動域運動を実施し,各症例の状況に応じて選択した。負荷を与える際は,弱いラバーバンドを利用し,できるだけ疼痛を誘発しない可動範囲のみとした。ホームエクササイズでは,4 - 6個の運動を30回3セットとし,1日に2回実施した。また,症例の状況に応じて,筋のストレッチを追加した。ホームエクササイズは,症状の変化に応じて適切なものに変更した。対象者にはホームエクササイズを記載した紙面を渡し,実施状況を記録させた。
 一次アウトカム評価は,Shoulder Pain and Disability Index (SPADI)とし,二次アウトカム評価は,疼痛(Numeric Rating Scale, NRS),Fear Avoidance Beliefs Questionnaire (FABQ),自動関節可動域,就労状況,治療の満足度,整形外科的テストとした。疼痛の評価は毎週実施し,その他の評価は介入開始前と6週後に評価した。また,SPADI については26週後にも評価した。
 SPADIの臨床的に意義のある最小変化量は20点と報告されている。本研究は,群間のSPADIの差が20点で有意確率を0.05とした際に,検出力が0.8を超えるようにデザインした。時間をランダム係数とした線形混合効果モデルを用いて分析した。なお疼痛とSPADIについては年齢と性別の影響を除去し,その他の指標については年齢と性別と開始時の疼痛の影響を補正した。。

結果

 6週間の介入期間におけるドロップアウトは,ホームエクササイズ群2名,管理下の運動療法群0名であった。管理下の運動療法群の介入回数の中央値は8回であった。ホームエクササイズの実施率は,ホームエクササイズ群88%,管理下の運動療法群80%であった。
 6週間の介入により,両群ともに有意な改善を認め,能力障害,疼痛ともに30 - 40%の改善を認めた。しかし,群間の比較では,SPADI,NRS,FABQ,自動関節可動域,満足度,就労状況について,有意な差を認めなかった。
 両群間に有意な差を認めたのは,整形外科的テストのみであり,2つ以上のテストが陽性な者の数は,管理下の運動療法群(11/23)よりもホームエクササイズ群(18/21)で有意に多かった。

考察

 今回の検討では,肩峰下インピンジメント症候群に対する6週間のホームエクササイズは,疼痛と能力障害を改善したが,初回以降のセラピスト管理下の運動療法の追加については有意な効果を認めなかった。
 肩峰下インピンジメント症候群に対する運動療法の効果は,介入開始6週間以内が顕著であることが報告されており,本研究でも介入6週間による変化を分析した。先行研究では,6週間の運動療法による介入で40 - 50%の改善が報告されており,今回の結果の結果もおおよそ一致する。しかしこの改善には自然治癒の影響が含まれていることに留意すべきである。
 一方,結果では示していないが,SPADIが49点以上でやや重度な症例については,ホームエクササイズよりも,管理下の運動療法の方が,改善が大きい傾向があった。
 本研究の結果より,肩峰下インピンジメント症候群に対する介入において,ホームエクササイズに加え,全症例にセラピスト管理下の運動療法を継続的に実施することは不適切であることが示唆された。

【解説】

 肩峰下インピンジメント症候群の介入で,ホームエクササイズにセラピスト管理下の運動療法を追加した際の効果を検証した意義ある研究だと考えられる。セラピストにとっては,あまり喜ばしい結果ではないが,他の研究でも同様な報告がなされている1-2)。一方,変形性膝関節症については,ホームエクササイズよりもセラピスト管理下の運動療法の方が有効とする報告がなされている3)。このような情報も踏まえたうえで,効果的な運動療法を検証していく必要があると思われる。
 考察でも触れられているように,肩峰下インピンジメント症候群の介入については,症状や重症度,就労環境等によって,個別介入の効果が異なることが予想される。今後,症例の状況に応じた介入戦略について,ホームエクササイズを含め,システマティックに整理していく必要があると考えられる。

【引用・参考文献】

  1. Şenbursa G, Baltaci G, Atay ÖA: The effectiveness of manual therapy in supraspinatus tendinopathy. Acta Orthop Traumatol Turc. 2011;45(3):162-7.
  2. Kuhn JE: Exercise in the treatment of rotator cuff impingement: a systematic review and a synthesized evidence-based rehabilitation protocol. J Shoulder Elbow Surg. 2009;18(1):138-60.
  3. Deyle GD, Allison SC, Matekel RL, Ryder MG, Stang JM, et al.: Physical therapy treatment effectiveness for osteoarthritis of the knee: a randomized comparison of supervised clinical exercise and manual therapy procedures versus a home exercise program. Phys Ther. 2005;85(12):1301-17.

2015年09月01日掲載

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