女性尿失禁患者に対する骨盤底筋トレーニングと対照群との比較

Dumoulin C, Hay-Smith EJ, Mac Habée-Séguin G.Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2014 May 14;5:CD005654.

PubMed PMID:24823491

  • No.1512-1
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部
    理学療法学科
  • 掲載:2015年12月4日

【論文の概要】

背景

 骨盤底筋トレーニング(PFMT)は腹圧性尿失禁(SUI)を有する女性に対して最も一般的に用いられている理学療法の治療である。

目的

 尿失禁を有する女性に対するPFMTの効果を無治療群、プラセボもしくはシャム治療群、その他の非活動的なコントロール治療群と比較し、検証すること。

方法

 CENTRAL,MEDLINE,MEDLINE In-Processから同定された研究、手作業で検索した学術雑誌及び会議録(2013年4月15日に検索)とそれらの関連記事の参考文献を含むコクランの尿失禁に特化した登録一覧表を検索した。選定基準は腹圧性、切迫性、混合性尿失禁のいずれかを有する女性に対するランダム化もしくは準ランダム化試験とした。尿失禁の判定は症状、徴候、ウロダイナミクス検査に基づくものとした。介入の1つはPFMTを含むものとした。対照群は無治療、プラセボ、シャム、その他の非活動的なコントロール治療群とした。
 各研究はそれぞれ独立して2人の著者によって適格性と方法の質を評価された。データは抽出された後、照合された。意見が異なった場合は話し合って解決した。データはコクランの介入研究についてのシステマティックレビューのハンドブックに則って手続きされた。研究は尿失禁の分類によってサブグループに分けられた。メタアナリシスはグループに割り当てた際に規則に則って行われた。

結果

 1281名(うちPFMT群665名、コントロール群616名)の女性を含む21編の論文が選定基準を満たした。うち18編の論文(1051名)がフォレストプロットの作成に寄与した。これらの論文は概して対象者数が少数~中等度であったり、中等度のバイアスがある可能性があったり、報告書に基づくものがあったりした。また、これらの論文は用いられた介入方法や調査対象とした母集団、アウトカムの評価基準にかなりのばらつきを認めた。調査した論文の中に混合性もしくは切迫性尿失禁のみを対象としたものは見られなかった。
 SUIを有する女性において、PFMTを行った群は対照群と比較しておよそ8倍治癒する可能性が高かった(46/82(56.1%)対5/83(6.0%)、リスク比8.38、95%CI 3.68 to 19.07)。また、約17倍の女性が治癒もしくは改善する傾向が強かった(32/58 (55%)対2/63(3.2%)、リスク比17.33、95%CI 4.31 to 69.64)。いずれの型の尿失禁を対象とした研究においても、効果量は減少するもののSUIを対象とした場合と同様にPFMT群はコントロール群と比べて尿失禁の治癒、もしくは改善する傾向が高いとの報告がなされた。切迫性、もしくは他の型の尿失禁女性がPFMTでの治療に満足した一方で、コントロール群は更なる治療を探す傾向が見られた。PFMTを行った群は尿漏れの回数が減少したり、パッドテストにおいて尿漏れの量が減少したり、日中の排尿回数が減少したりした。性機能についても同様に良好な結果が得られた。2編の論文(対象が少人数のものが1編、中等度の人数のものが1編)において治療後1年にわたって効果が続くとのエビデンスを報告していた。治療によって悪化した例も少数報告されたが、深刻なものはなかった。
 本レビューによる発見は表のまとめによって広く支持されるものだが、エビデンスの多くは方法論的な問題で中等度のレベルに評価を下げられる。例外はSUIを有する女性が「治癒したと分かった」場合であり、この場合は質の高い研究として位置づけられる。

結語

 本レビューはSUIをはじめ、どのタイプの尿失禁に対してもPFMTが保存的治療の第一選択の1つとなることを広く推奨することを支持する。PFMTの長期効果については更なる研究が求められる。

【解説】

 このシステマティックレビューでは、女性の尿失禁患者に対する骨盤底筋トレーニングの効果について検証している。日本では診療報酬の適用から外れていることもあり、尿失禁患者に対する理学療法士による骨盤底筋トレーニングの指導は一般的ではない。しかしながら本レビューでも述べられている通り、骨盤底筋トレーニングは腹圧性尿失禁を始めとする全てのタイプの尿失禁の保存療法の第一選択としてエビデンスが確立されており、欧米では理学療法士による介入が広く行われている。今回検討された論文の対象者は中高年の女性であったが、妊産婦を対象としたシステマティックレビューにおいても骨盤底筋トレーニングは尿失禁の予防及び改善に効果があると報告されている。腹圧性尿失禁は骨盤底の構造上女性に多い症状であり、直接的に生命に関わることはないがQOLを低下させる重大な問題となりうる。近年、本邦でもウィメンズヘルス領域への関心が高まりつつあり、理学療法の適用となる範囲が広がることが期待される。

【参考文献】

  1. Mørkved S, Bø K: Effect of pelvic floor muscle training during pregnancy and after childbirth on prevention and treatment of urinary incontinence: a systematic review. Br J Sports Med. 2014 Feb; 48 (4): 299-310.
  2. Stadnicka G, Łepecka-Klusek C, et al: Psychosocial problems of women with stress urinary incontinence. Ann Aqric Environ Med. 2015 Sep 4; 22 (3): 499-503.

2015年12月04日掲載

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