間質性肺疾患患者における有酸素運動前後の呼吸循環機能

Keyser RE, Woolstenhulme JG, Chin LM, Nathan SD, Weir NA, Connors G, Drinkard B, Lamberti J, Chan L. Cardiorespiratory function before and after aerobic exercise training in patients with interstitial lung disease.
J Cardiopulm Rehabil Prev. 2015 Jan-Feb;35(1):47-55

PubMed PMID:25313451

  • No.1602-1
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部
    理学療法学科
  • 掲載:2016年2月4日

【論文の概要】

背景

 有酸素運動によって得られる運動耐容能の改善は、酸素供給量の増加と酸素抽出能の増加によって生じる。間質性肺疾患(ILD)患者においても有酸素運動による運動耐容能の増加は報告されているが、その特徴は明らかにされていない。

目的

 本研究の目的は、ILD患者における有酸素運動訓練前後における呼吸循環応答の特徴を明らかにする事である。

方法

 ILD患者13名(NYHA/WHO機能分類ⅡまたはⅢ)を対象に、10週間のトレッドミルを用いた監視型のトレーニングを予備心拍数の70~80%の強度で、1回30~45分、週3回実施した。トレーニングの前後にトレッドミルによる心肺運動負荷試験を実施した。その際に呼気ガス分析器を用いて最高酸素摂取量(peakV'O2)、換気量などの呼吸代謝指標、近赤外分光法による腓腹筋の酸素抽出能、および生体インピーダンスカルジオグラフィで得られる心拍出量などの循環指標を測定した。その他に6分間歩行距離(6MWD)も測定し、これらを効果判定の指標とした。

結果

 全ての対象者は、予定された30回のトレーニング回数中少なくとも24回は参加し、有害なイベントはなかった。トレーニング後に、6MWDは52±48m(P=0.001)、心肺運動負荷試験時間は163±130秒(P=0.001)、無酸素性作業閾値に達するまでの時間は145±37秒(P<0.001)、動静脈酸素較差は16%(P=0.049)、peak V'O2は4.4%(P=0.048)有意に増加した。また腓腹筋の酸素動態では、脱酸素化ヘモグロビン・ミオグロビン量(Deoxy-Hb/Mb)が有意に増加していた。しかし心拍出量、換気量、WR/ V'O2関係に有意な変化はなかった。

考察

 本研究において運動耐容能は改善したが、心拍出量など酸素供給指標には差を認めなかった。一方、動静脈酸素較差及び腓腹筋のDeoxy-Hb/Mbが増加していたことから、末梢の酸素抽出能は改善しており、これが運動耐容能の増加に繋がったものと考えられた。しかしpeak V'O2の改善率は健常者の報告に比較して低く、効果は限定的と思われた。但し、全症例で有害なイベントもなく実施可能であり、6MWDは臨床的に有意な改善も示している事から、ILD患者に対する有酸素運動は安全で運動耐容能の改善に効果的な治療法と考えられた。

まとめ

 ILD患者に対する有酸素運動は、安全に実施可能で運動耐容能の改善が認められた。この改善は、酸素供給量よりも末梢の酸素抽出の改善によってもたらされたものと考えられた。

【解説】

 ILDにおける運動療法の効果に関しては、近年多数報告されるようになったが、その改善のメカニズムを明らかにしようとした論文は少ない。健常者では酸素供給能、酸素利用能ともに改善し運動耐容能の改善が得られるが、ILDでは酸素供給能の改善は得られにくい。ILDは、肺活量低下や拡散障害による低酸素血症や息切れが臨床的には目立っているが、肺循環も障害されやすく骨格筋機能障害も認められ、これらが運動耐容能を更に低下させている。今回の研究では、骨格筋機能の改善が運動耐容能の改善に繋がっているとしているが、COPDでも同様の傾向は認められている。また運動療法の効果はpeak V'O2よりも運動持続時間の方が反応性が良いとされており、本研究も同様の傾向が確認された。最後に、peak V'O2の改善は小さかったが、日常生活の機能障害を反映するとされている6MWDの改善は比較的大きく、対象者数は少ないものの有酸素運動が効果的な治療法であり、それは骨格筋の改善によってもたらされたことを明らかにした有用な論文であると考える。

【参考文献】

  1. Dowman L, Hill CJ, Holland AE. :Pulmonary rehabilitation for interstitial lung disease. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Oct 6;10:CD006322.
  2. Arizono S, Taniguchi H, et.al.: Endurance time is the most responsive exercise measurement in idiopathic pulmonary fibrosis. Respir Care. 2014, 59(7):1108-15.

2016年02月04日掲載

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