脳卒中患者に対するwireless sensorを用いた活動性フィードバック効果:SIRRACT

Dorsch AK, Thomas S, et al. SIRRACT: An International Randomized Clinical Trial of Activity Feedback During Inpatient Stroke Rehabilitation Enabled by Wireless Sensing. Neurorehabilitation and Neural Repair 2015, Vol. 29(5) 407–415

PubMed PMID:25261154

  • No.1602-2
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部
    理学療法学科
  • 掲載:2016年2月4日

【論文の概要】

背景

 近年、ワイヤレスセンサーを用いることによって脳卒中患者の活動性を的確に再現性をもって評価できることが報告されている。また、脳卒中患者の歩行能力に関して、SIRROWSトライアルとして、歩行速度に関するフィードバックの提供が有意に歩行速度を改善させることが報告されている。そこで、ワイヤレスセンサーによる歩行(下肢)活動性の評価結果とフィードバックを組み合わせることでさらなる効果が得られるのではないかと考えられる。

目的

 入院中の脳卒中患者の歩行能力において、これまでのフィードバックのみと比較して、ワイヤレスセンサーによる活動性評価とフィードバックの効果を国際的共同研究にて明らかにすること。

方法

 国際的に18施設と共同し、リハビリテーション開始から10日以内に5歩以上歩行可能となり、発症から35日以内の脳卒中患者を対象とした。対象者は歩行速度に関するフィードバックのみ与えられる(SF)群と活動性も含めたフィードバックを与えられる(AF)群とに無作為に分類された。ワイヤレスセンサー(加速度計)は内果に設置し、毎晩データを取り込んだ。SF群は1週間に3回、10m歩行を実施した際にセラピストから言語的フィードバック(「とても良い」「改善に向けて頑張りましょう」など)を与えられ、AF群ではさらにワイヤレスセンサーから得られた活動性のグラフを提示され、その結果に対する激励を受けた(「改善がみられます」「まだ改善はみられませんが改善しましょう」など)。測定項目は15m歩行速度、FAC、3分間の歩行距離とした。また、対象者の認識(理解)度とセンサーの使用に関する容易さも評価された。

結果

 全対象者156名のうち、参加基準を満たした151名が実験に参加した。このうちSF群73名・AF群78名に割り付けられたが、このうち16名が介入を受けられずにSF群63名・AF群72名が介入を受け、最終的に15ヶ月間以上にてSF群58名・AF群67名の計125名が実験を完遂することができた。介入期間は2117日となり、そのうち1891日からのデータを抽出した。実験期間中の日常歩行時間にはグループ間で有意差はなく、実験開始時および終了時における15m歩行速度においても有意差は認められなかった。その他FACおよび3分間歩行距離にも有意な改善がみられなかった。センサーの使用については87%が取り付けが容易であると答え、97.6%が動きを妨げることはなかったと回答した。

考察

 本研究ではAFによる特異的な効果を見出せなかった要因として、ほとんどの患者の連続歩行距離が少なかったこと(最も多くの連続歩行時間は30秒以内であった)、1/3の患者が入院生活における歩行時間が減少していったことが挙げられる。これらは病棟の廊下の距離や装具使用の学習、リハ時間の調整、患者の疲労などといった急性期の特徴が反映された可能性がある。しかしながら、群間差はないものの、両介入群ともに歩行速度の改善が認められ、これらの改善は先行研究にて報告されているトレッドミルやロボットを用いた介入効果と比較して高い改善であることから、その他の要因はあるもののフィードバックの効果が考えられる。さらに、今回使用したワイヤレスセンサーでは歩行速度0.5m/s以下の患者においても歩行評価が可能であったため今後の有用性が示唆された。

まとめ

 国際的共同研究によって脳卒中患者の歩行能力に対する言語的フィードバックだけでなく、ワイヤレスセンサーを用いた歩行活動のフィードバックによる効果を検証した結果、フィードバックのみと比較して特異的な効果を示さなかった。しかしながら、このワイヤレスセンサーは取り付けが容易であり、歩行能力とその活動性を評価できることから今後の活用性が考えられる。

【解説】

 脳卒中患者の歩行能力改善に対して、本研究グループの1人であるDobkinら1)が中心となったSIRROWトライアルでは患者への「正のフィードバック」提供が有意な歩行速度の向上を報告している。この報告では、正のフィードバックによって強化学習が促進されたのではないかと考察されている。本研究では、さらに自身の活動状況を客観的にフィードバックすることでより強化学習が促進されると考えられたものの、良好な効果が認められなかった。今回は対象とした施設が急性期病棟であったことがその原因と考察されているが、Mansfieldら2)は同様に加速度計を用いた歩行活動性情報を患者へ提供することによって、単なるフィードバックと比較して歩行能力の改善を報告しており、その効果の有無はさまざまな要因が関係していることが考えられる。いずれにしても、患者に対する正のフィードバックは歩行能力向上に有効であると考えられ、さらに使用が簡易であれば加速度計を用いた自身の客観的データの提供は、患者の病期や歩行能力によってはさらなる強化学習を促進する可能性が考えられる報告である。

【参考文献】

  1. Dobkin BH, Plummer-D’Amato P, et al. SIRROWS Group. International randomized clinical trial, Stroke Inpatient Rehabilitation With Reinforcement of Walking Speed (SIRROWS), improves outcomes. Neurorehabil Neural Repair. 2010;24:235-242.
  2. Mansfield A, Wong JS, et al. Use of Accelerometer-Based Feedback of Walking Activity for Appraising Progress With Walking-Related Goals in Inpatient Stroke Rehabilitation: A Randomized Controlled Trial. Neurorehabil Neural Repair. 2015;29:847-857.

2016年02月04日掲載

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