710人の地域在住高齢者を対象とした18か月間の低強度・高周波数振動が転倒率と骨折リスクに与える影響 -クラスター無作為化比較試験

Leung KS, Li CY, Tse YK, Choy TK, Leung PC, Hung VWY, Chan SY, Leung AHC, Cheung WH. Effects of 18-month low-magnitude high-frequency vibration on fall rate and fracture risks in 710 community elderly – a cluster-randomized controlled trial. Osteoporosis Int 25: 1785-1795, 2014.

PubMed PMID:24676848

  • No.1605-1
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部理学療法学科
  • 掲載:2016年5月1日

【論文の概要】

背景

 高齢者の脆弱性骨折は、重要な医療社会問題の一つである。たいていの骨折は低バランス能力、転倒、骨強度の低下が組み合わさって生じる。筋機能、動作協調性、骨量を改善し、かつ骨折リスクを減じる介入が必要である。振動トレーニングは筋力、姿勢制御、バランス能力、骨形成、循環などに対し、複数の効果が示されている。そして、著者も低強度・高周波数振動(LMHFV)の骨折治癒、骨リモデリング(動物実験)やバランス能力、長期臥床者の骨量(ヒトの実験)に対する効果を研究してきた。しかし最近の臨床研究において、振動トレーニングは骨に対しては効果がないとの報告がなされている。そのため、閉経後女性において、長期の振動刺激トレーニングが転倒率および骨折率に及ぼす影響を調査する必要がある。

目的

 LMHFVが地域高齢者の筋パフォーマンスと骨量を改善することにより、転倒と骨折率を減少させるとの仮説のもと、長期間のLMHFVが高齢者の転倒と骨折率に与える影響を調査する。

方法

 単盲検、クラスター無作為化比較試験で実施した。香港の異なる地区にある24の高齢者コミュニティセンターにポスターや口頭で参加者を募り、60歳以上の健康な女性で自立し、活動的な者を対象とした。但し、骨・筋系の代謝に影響する薬剤を服用している者や疾患を有している者、週2回以上の規則的な運動を実施している者、ペースメーカのある者、悪性腫瘍のある者、喫煙もしくは過度のアルコール摂取のある者は除外した。コミュニティセンターを基準に2群に分け、対照群は今まで通りの生活を送り、コミュニティセンターで行われている通常の集団活動(カードゲームや芝居など)を行った。振動群は、コミュニティセンターでの通常の活動に加え、直立位でLMHFV(垂直方向、35Hz、0.3g、変位<0.1mm、20分間/日、5日間/週、18か月間)を実施した。0、9、18か月にアウトカム評価(自己申告による転倒と骨折の調査、ID管理によるLMHFV実施状況、安定性テストによるバランス能力評価、大腿四頭筋筋力測定、DXAによる非利き脚の大腿骨および腰椎の骨密度測定、SF-36による健康関連QOL評価)を行った。評価者と統計学者は対象者情報をブラインドされ、対象者も彼らに情報を漏らさないように伝えられた。

結果

 1026名をスクリーニングし、710名(振動群364名、対照群346名)が対象とされた。振動群の平均コンプライアンスは66.0%であった。転倒記録をつけていた者は振動群334名、対照群346名で、それぞれ62名と94名が転倒または骨折していた。振動群では、転倒または骨折のハザード比(HR)は0.56で、転倒発生率は対照群よりも46%低かった。また、振動群と対照群の複数回転倒率はそれぞれ2.1%、6.4%であり、骨折率はそれぞれ1.1%、2.3%であった。利き脚、非利き脚とも大腿四頭筋筋力は9、18か月の時点で、振動群は対照群よりも有意に高値であった。また、バランス能力(反応時間、移動速度、初期到達点、最高到達点)も9、18か月の時点で、振動群は対照群よりも有意に改善していた。SF-36は9か月時で、大腿骨・腰椎骨密度は18か月時で改善傾向は認められたものの、両群間に統計学的な有意差は認められなかった。この18か月間に、振動介入に関連した重大な有害事象は認められなかった。

考察

 本研究では、LMHFVが転倒予防に効果的であることを示した。その効果は振動介入9か月後には表れ、18か月まで持続した。特に、再転倒率は振動群で非常に低く、これはLMHFVの長期効果であると考えられる。また、統計学的有意差は示されなかったが、SF-36は筋パフォーマンスに効果が認められた時期には変化が認められ、機能的、社会的活動に影響を及ぼすと考えられた。本研究では、振動機をコミュニティセンターに設置したため低コストで実施でき、高齢者にも実施を進めやすい。また、コンプライアンスも長期間介入としては十分であった。本研究の振動条件は、筋力に明確な効果が認められたが、振動条件の違いにより筋や骨に与える影響も異なる可能性がある。1年後には、介入後の持続効果を評価するつもりである。

まとめ

 地域在住高齢者に対するLMHFVは、筋力およびバランス能力の改善とともに、転倒予防に有効であることが示された。非侵襲的なLMHFVを効果的な転倒予防プログラムとして推奨し、転倒由来の外傷を減らすようにすべきである。

【解説】

 我が国では、要介護に陥る原因の約10%を転倒による骨折が占めており、高齢者に対する骨折予防の重要性は高い。骨量の増加と転倒の予防は骨折リスクを低下させることにつながり、運動療法はこの両者に有効であると考えられる。中でも全身振動刺激(WBV)は、高齢者にとって安全かつ少ない疲労で実施可能である。しかしながら、WBVの骨量に対する効果は一致しておらず、本論文のように骨量は改善されなかったとの報告も見受けられる。一方、WBVにより筋力やバランス能力が改善し、転倒リスクが軽減したとの結果は、WBVが高齢者の運動機能の維持・改善を図る方法の一つとなりうることが期待できる。

【参考文献】

1.Ma C, et al; Effect of whole-body vibration on reduction of bone loss and fall prevention
   in postmenopausal women: a meta-analysis and systematic review.
  J Orthop Surg Res 11: 24, 2016.

2.von Stengel S, et al; Effects of whole body vibration on bone mineral density and
  falls: resultsof the randomized controlled ELVIS study with postmenopausal women.
  Osteoporos Int 22:317-325,2011.

3.Verschueren SM, et al; Effect of 6-month whole body vibration training on hip density,
  musclestrength, and postural control in postmenopausal women: a randomized
  controlled pilot study. JBone Miner Res 19: 352-359, 2004.

2016年05月01日掲載

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