特発性肺線維症患者における12週間の運動トレーニングプログラムが及ぼす長期効果

Vainshelboim B, Oliveira J, Fox BD, Soreck Y, Fruchter O, Kramer MR.: Long-term effects of a 12-week exercise training program on clinical outcomes in idiopathic pulmonary fibrosis.Lung. 2015, 193: 345-354

PubMed PMID:25731736

  • No.1605-2
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部理学療法学科
  • 掲載:2016年5月1日

【論文の概要】

背景

 特発性肺線維症(IPF)は、慢性の進行性疾患で、生命予後が不良である間質性肺疾患である。患者の5~10%は毎年IPFの急性増悪を経験し、死亡率に影響を及ぼす。IPFは、呼吸困難や肺機能、低酸素血症、運動耐容能などの悪化を来たし、QOLも低下する。
 運動トレーニング(ET)は呼吸リハビリテーションプログラムの構成要素であり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、呼吸困難や運動耐容能、QOLを改善させる。しかし、IPF患者におけるETプログラムの効果については、短期効果は検証されているが、長期効果(6ヶ月以上)に関しては十分に明らかにされていない。

目的

 本研究の目的は、IPF患者において12週間のETプラグラムが長期的に及ぼす影響を検証することである。

方法

 IPF患者34名を対象に、ET実施群とコントロール群にランダムに分類した。ET実施群は,監視型の運動プログラムを1回60分、週2回で12週間実施し、コントロール群は定期的な医療ケアのみ継続した。肺機能検査、運動能力(運動負荷試験・6分間歩行テスト)、下肢筋力評価として椅子からの30秒間立ち上がりテスト、呼吸困難(修正MRC scale)、QOL評価としてSGRQをベースラインに評価し、ベースラインから11ヶ月後にも再評価した。また、ベースラインから30ヶ月後に、12週間の運動介入による効果を生存と心肺疾患関連の入院で解析した。

結果

 32名の患者(ET実施群15名、コントロール群17名)が12週間のプログラムを完遂し、そのうち28名の患者(各群14名)で11ヶ月後の再評価を実施した。11ヶ月後のフォローアップでは、2群間で有意差はなく、各群におけるベースラインとの比較でも成果を示すものは多くなかった。コントロール群では悪化傾向を示したのに対して、ET実施群ではベースラインのレベルを維持できていた。2群間で有意差を認めた項目は、椅子からの30秒間立ち上がりテスト(差の平均3回、p=0.01)とSGRQ(差の平均-6点、p=0.037)であった。30ヶ月後の時点で、コントロール群では3名が死亡、8名が入院し、ET実施群では1名が死亡、1名が肺移植を施行され、7名が入院していたが、2群間で有意差はなかった。

考察

 11ヶ月後のフォローアップにおいて、ET実施群では12週間のETプログラムによりベースラインのレベルを維持し、下肢筋力とQOLで改善を示した。一方、コントロール群では悪化傾向を示した。ET実施群でベースラインと同程度であったことは、運動トレーニングを中止した場合、時間とともに効果が消失する‘可逆性の原則’によると考えられた。また、両群ともIPFの病態の進行により悪化した可能性も考えられた。
 本研究では、30ヶ月後の時点で、12週間のETプログラムが予後に有用であるかどうかを示すことはできなかった。この要因としては、運動機能やQOLの維持・改善を示すには対象者数は十分であったが、生存率や入院の相違を検討するには、対象者数は少なく、不十分であったと考えられた。

まとめ

 我々は、IPF患者において、長期的な継続治療として呼吸リハビリテーションプログラムの中心的な構成要素にETプログラムを含めることを推奨する。

【解説】

 IPFは間質性肺疾患の中でも特に生命予後が不良である慢性肺疾患である。またIPFは病態や進行の程度に個人差があり、呼吸リハビリテーションや理学療法の効果が得られる前に、急激に病態が悪化することも多い。このため、IPF患者における呼吸リハビリテーションの効果に関する報告は、COPD患者での報告と比較すると非常に少なく、また長期効果(6ヶ月以上)に関しては明らかにされていない。
 今回の研究は、運動トレーニングの実施期間は12週間であるが、その後11ヶ月後のフォローアップと、30ヶ月後の生存率・入院に関して検討した報告である。生存率や入院に関しては、対象者数が少なく、十分な検討はできていない。しかし、これまで呼吸リハビリテーション実施の6ヶ月後で、6分間歩行距離、呼吸困難、QOL、抑うつ、身体活動で改善を示したという報告はあったが、11ヶ月後に下肢筋力とQOLで改善を示した報告は本研究が初めてであり、IPF患者における運動トレーニングの長期効果を示す有用な論文であると考える。

【参考文献】

1.Holland AE, Hill CJ, Conron M, et.al.: Short term improvement in exercise
  capacity and symptoms following exercise training in interstitial lung disease.
  Thorax. 2008, 63(6):549–554.

2.Ryerson CJ, Cayou C, Topp F, et.al.: Pulmonary rehabilitation improves long-term
  outcomes in interstitial lung disease: a prospective cohort study.
  Respir Med. 2014, 108(1):203–210.

2016年05月01日掲載

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