MoCA-パーキンソン病の認知機能障害のスクリーニングに適した評価

Dalrymple-Alford JC, MacAskill MR, Nakas CT, Livingston L, Graham C, Crucian GP, Melzer TR, Kirwan J, Keenan R, Wells S, Porter RJ, Watts R, Anderson TJ.
The MoCA: well-suited screen for cognitive impairment in Parkinson disease. Neurology. 2010; 75(19): 1717-1725.

PubMed PMID:21060094

  • No.1607-1
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部理学療法学科
  • 掲載:2016年7月1日

【論文の概要】

背景

 パーキンソン病(PD)患者は疾患の経過の中で80-90%が認知症を発症することが報告されている。 PD患者の認知機能障害の程度と経過を評価するため、認知症(PDD: PD with dementia)と軽度認知障害(PD-MCI: PD with mild cognitive impairment)のスクリーニングは重要である。Movement Disorder Societyにおいて、PDDの評価にMini-Mental State Examination(MMSE)を使用することが推奨されている。近年Montreal Cognitive Assessment(MoCA)1)がPDや他の神経変性疾患の認知機能のスクリーニング評価に用いられるようになってきているが、MoCAのPDDの弁別妥当性については明らかにされていなかった。
 

目的

 本研究の目的は、MoCAとMMSE、パーキンソン病の認知機能障害の尺度であるScale for Outcomes in Parkinson’s disease-Cognition (SCOPA-COG)のPDD,PD-MCI,認知機能障害のないPD患者(PD-N)の弁別妥当性について比較検証することであった。

方法

 対象は114名のPD患者と47名の健常者であった。Movement Disorder Societyの基準2)によると21名のPD患者がPDD、21名の患者がPD-MCI、その他の72名の患者がPD-Nに該当した。すべての対象者に対してMMSE、MoCAを評価した。SCOPA-COGの評価は、認知機能が正常な者(11名の健常者と37名のPD-N)と1名のPDD患者以外の対象者に対して実施した。
 

結果

 MoCA、MMSE、SCOPA-COG は、PDD群が他の群と比較してスコアが低く、PD-MCI群はPD-N群と比較して低かった。PD-N群と健常群において小さいが有意な差を認めたのはSCOPA-COGのみであり、MoCAやMMSEは差を認めなかった。Receiver operating characteristic(ROC)解析の結果、MMSE、MoCA、SCOPA-COGはPDDとPDD以外の患者(area under the curve[AUC], 87-91%)、およびPD-MCIとPD-N(AUC, 78-90%)を良好に弁別可能であったが、MoCAはそれらをより良好に弁別可能であった。PDDを弁別する上で最適なMoCAのカットオフ値は21点未満(感度81%、特異度95%、陰性適中率95%)であった。
 

考察

 本研究が行われた時点でMovement Disorder SocietyのMCIの診断基準3)に関するコンセンサスは得られていない。したがって、本研究結果からMoCAはPDDの弁別妥当性が良好であり、PDDをより正確に判別する上で有用な指標であると考えられる。また、SCOPA-COGは、PD-N群と健常群に差を認めたことから、疾患(PD)由来の認知機能評価として有用であると考えられる。
 

まとめ

 MoCAはMMSEやSCOPA-COGと比較してPDDを判別する上で有用な簡潔なスクリーニング指標であり、PDDに関しては21点がカットオフ値となると考えられる。

【解説】

 MoCAは軽度認知機能低下のスクリーニングツールであり、注意、遂行機能、短期記憶、言語、空間認知、概念的思考、計算、見当識など主要な認知機能領域について、約 10 分間で評価可能である。MoCAはMMSEと比較してPD患者において問題になることが多い遂行機能や視空間認知に関する配点が多い。Movement Disorder Societyの基準ではPDDの基準はMMSE26点未満であるが、MoCA21点未満という基準も有用である可能性が本研究により示された。PD患者は、疾患の経過の中で80-90%が認知症を発症するとされている。PDの運動障害に対するリハビリテーションの有効性に関するエビデンスは蓄積されてきているが、それらの研究において認知機能が低下しているPD患者を除外しているものがほとんどであり、認知機能が低下したPD患者の運動障害に有効なリハビリテーション介入戦略やその効果については明らかにされていない。今後はPD患者における認知機能低下の程度をMoCAのような簡便な指標でスクリーニング評価し、さらにどのような認知機能領域が低下しているのかを他の評価指標を用いて評価した上で、適切なリハビリテーション介入戦略について検討していく必要がある。 

【参考文献】

  1. Nasreddine ZS, Phillips NA, Bédirian V, Charbonneau S, Whitehead V, Collin I, Cummings JL, Chertkow H. The Montreal Cognitive Assessment, MoCA: a brief screening tool for mild cognitive impairment. J Am Geriatr Soc. 2005; 53(4): 695-699.
  2. Emre M, Aarsland D, Brown R, Burn DJ, Duyckaerts C, Mizuno Y, Broe GA, Cummings J, Dickson DW, Gauthier S, Goldman J, Goetz C, Korczyn A, Lees A, Levy R, Litvan I, McKeith I, Olanow W, Poewe W, Quinn N, Sampaio C, Tolosa E, Dubois B. Clinical diagnostic criteria for dementia associated with Parkinson's disease. Mov Disord. 2007; 22(12): 1689-1707.
  3. Litvan I, Goldman JG, Tröster AI, Schmand BA, Weintraub D, Petersen RC, Mollenhauer B, Adler CH, Marder K, Williams-Gray CH, Aarsland D, Kulisevsky J, Rodriguez-Oroz MC, Burn DJ, Barker RA, Emre M. Diagnostic criteria for mild cognitive impairment in Parkinson's disease: Movement Disorder Society Task Force guidelines. Mov Disord. 2012; 27(3): 349-356.

2016年07月01日掲載

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