入院中の脳卒中患者に対するグループセラピーによる課題トレーニングと個別課題トレーニングにおける効果比較:RCT

Renner CI, Outermans J, et al.: Group therapy task training versus individual task training during inpatient stroke rehabilitation: a randomised controlled trial. Clinical Rehabilitation 2016,Vol.30(7)637-648

PubMed PMID:26316552

  • No.1608-1
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部理学療法学科
  • 掲載:2016年8月1日

【論文の概要】

背景

 脳卒中患者に対するリハビリテーションではセラピー時間を増大させることが良好な結果に繋がることが多数報告されている。そのセラピー時間を増大させ、かつスタッフが関わる時間を増大させず可能な1つの方法として、監視下のもとグループにて実施する課題指向型サーキットクラストレーニングがあり、歩行能力の改善などが報告されている。しかしながら、これまでの報告は退院した患者や10m以上歩行可能な症例などを対象としており、入院患者や著しく歩行能力が低下している症例についてはその効果が不明である。我々は先行研究において、通常セラピー(週5回または7回)と比較してGroup Circuit Class therapyでは歩行距離に有意な差はないことを検証したが、中等度から重症患者を対象として、トレーニング時間をマッチさせた個別セラピーとの比較した効果を検証する必要がある。
 

目的

 入院中の脳卒中患者の歩行能力において、トレーニング時間をマッチさせた個別セラピーと比較して、Group Circuit Class therapyの効果および安全性を明らかにすること。
 

方法

 対象は初回発症の脳卒中患者として以下の条件を満たすものとした;1)立ち上がり可能および装具等の有無に関わらず介助にて歩行可能(FACにて2〜4)、2)6週間のトレーニングプログラムに参加する意志がある、3)実験に関する指示理解可能(MMSE23点以上)。両セラピーともに6週間にわたり、週5回(1回につき90分)の頻度にて実施し、Group Circuit Class therapyではバランストレーニング、歩行、階段昇降、ターン、速度を変化させた歩行などとした。そして段階的な負荷設定として難易度の増大、おもり負荷、反復回数の増大を行った。これらのトレーニングを対象者はペアとなって交互に実施した。個別課題セラピーでは1名のPTにより、対象者のバランスおよび歩行能力に応じて調整された内容を実施した。主要測定項目はStroke Impact Scaleの移動項目とし、これには活動と参加に関わる59項目のうちバランスや歩行、階段そして屋外(地域)での移動に関してのself-reportにて評価する。副次的測定項目としてStroke Impact Scaleの他の項目、Rivermead mobility index、Falls Efficacy scaleなども評価し、さらにMotricity index、FAC、6MD、10m歩行速度、TUG、Chair rise testなども測定した。これらは介入前、介入後(6週間後)、フォローアップ(介入から24週後)に測定した。
 

結果

 全対象者206名のうち、参加基準を満たした73名が実験に参加した。このうち34名がGroup Circuit Class therapy群、39名が個別課題セラピー群に割り付けられたが、Group Circuit Class therapy群にて5名、個別課題セラピー群にて4名がドロップアウトとなった。介入の結果、6週後および24週後の時点においてStroke Impact Scaleに有意な差は認められず、両群ともに約40%の対象者に10ポイント以上の改善が認められた。さらに分析の結果、10m歩行速度と6MDにおいて個別課題セラピー群と比較してGroup Circuit Class therapy群にて良好な結果が認められた。
 

考察

 本研究の結果、発症から3ヶ月以内の中等度から重度な脳卒中患者に対して、6週間にわたる構造化された段階的負荷の増大を伴うGroup Circuit Class therapyは、同程度のトレーニング時間での個別課題セラピーと同じように安全かつ同様の効果をもたらすことが出来ることが明らかにされた。特に、10m歩行速度と6MDにおいてはGroup Circuit Class therapy群にて良好な結果を認めたが、介入前の群割り付けの時点で高い傾向を示していたことが影響していることが考えられる。これまでの先行研究においても歩行能力においてGroup Circuit Class therapyと個別セラピーにおける明確な差が示されていないのが現状である。一方、本研究では介入中およびフォローアップ段階において高いドロップアウト率を示しており、結果を一般化することは難しい。このことは、先行研究とは異なり入院かつ中等度から重度な患者を対象としたことが影響していると考えられるため、今後はこれらの要因をふまえたトレーニングプログラムの構築に関する検証が必要である。
 

まとめ

 6週間にわたる構造化された段階的負荷の増大を伴うGroup Circuit Class therapyは、個別課題トレーニングと同じように安全かつ同様の効果をもたらすことが可能である。さらに、グループトレーニングは4人の患者に対して実施する場合、PT一人当たりに要求される時間が1/3程度であったため、トレーニングに要する人員の削減にも繋がると考えられる。
 

【解説】

 近年、脳卒中患者の歩行能力改善に対してCircuit Class therapyが効果的であるとの報告が多数見受けられる。特に、移動能力に着目したCircuit Classでは1)立ち上がりとリーチ動作、2)階段昇降、3)床から拾い上げ動作を含めた歩行、4)ボールキック、5)ステップ動作、6)障害物歩行、7)臥位からの起き上がり立ち上がり動作、8)速歩という8カ所のworkstationと呼ばれるブースを順にトレーニングする内容が含まれ、歩行速度および6分間歩行距離においてその効果が認められ、通常のtherapyと比較しても副作用の出現に差が認められず安全に実施可能なtherapyであるとされている。本研究では先行研究において明らかになっていない入院中かつ歩行能力が高くない患者を対象とし、患者同士がグループ(ペア)となってCircuit Class therapyを実施した結果、個別therapyと比較して統計学的に有意な効果は示さなかったものの、安全性に問題なく同程度の効果を示した。ただし、考察にもあるようにドロップアウトした患者が多いことから適応に関する検証が必要であるとは考えられるものの、入院中からその患者に応じたグループによるCircuit Class therapyを実施することで、PT一人当たりのコストを削減しながら歩行能力改善における効果的なtherapyとなりうると考えられる。

【参考文献】

  1. Van de Port I, et al.: Cost-effectiveness of a structured progressive task-oriented circuit class training programme to enhance walking competency after stroke: The protocol of the FIT-Stroke trial. BMC Neurology 9:43,2009
  2. English C, et al.: Ciruit class therapy for improving mobility after stroke: A systematic review. J Rehabil Med 43:565-571,2011
  3. Van de Port I, et al.: Effects of circuit training as alternative to usual physiotherapy after stroke: randomised controlled trial. BMJ 344:e2672,2012
  4. Lawal IU, et al.: Effectiveness of a structured circuit class therapy model in stroke rehabilitation: a protocol for a randomised controlled trial. BMC Neurology 15:88,2015

2016年08月01日掲載

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