大腿直筋の運動課題に依存した空間的な神経筋活動パターン

Watanabe K, et al. : Task-dependent spatial distribution of neural activation pattern in human rectus femoris muscle. J Electromyogr Kinesiol. 2012 Apr;22(2):251-8.

PubMed PMID:22153052

  • No.1702-2
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院
    保健医療学研究科
    加藤 拓也
  • 掲載:2017年2月1日

【論文の概要】

背景、緒言

 複数の運動神経枝によって骨格筋が区分されることを神経筋区画(neuromuscular compartment: NMC)といい、ヒトと同様に動物で確認されている。動物実験によって、個々のNMCが異なる機能的役割を果たすことが示されているが、ヒトにおいて筋内の部位依存的な機能的役割は明らかとされていない。大腿直筋は、2つの異なる運動神経枝に支配されており、その運動神経枝は、近位部と遠位部に分かれていると報告されている。

目的

 本研究の目的は、多チャンネル表面電極を用いて、異なる2つの運動課題(膝関節伸展、股関節屈曲)時における大腿直筋の筋活動を計測し、大腿直筋が部位依存的な機能的役割を有しているか明らかにすること。

方法

 被験者は、健常成人男性11名(年齢: 24.5 ± 5.5歳、 身長: 172.3 ± 5.8 cm、 体重: 65.2 ± 5.7 kg)とした。被験者は、最大随意収縮(maximal voluntary contraction: MVC)および最大下随意収縮(20 %、40 %、60 %、および80 % MVC)にて、等尺性膝関節伸展ならびに股関節屈曲運動をそれぞれ実施した。測定肢位は座位とし、股関節屈曲90°、膝関節屈曲90°とした。運動課題時における大腿直筋の筋活動は、多チャンネル表面電極(128電極)を用い、近位部、中央部、遠位部に分けて記録した。

結果

 膝関節伸展時のMVCトルクは188.1 ± 27.3 Nm、股関節屈曲運動時のMVCトルクは175.8 Nmであり、両MVCトルク間に有意な差を認めなかった (P > 0.05)。膝関節伸展時、80 %MVCにおいて遠位部の筋活動は、近位部よりも有意に高値を示した (P < 0.05)。一方、股関節屈曲時、60 %MVCにおいて近位部の標準化RMSは、中央部および遠位部よりも有意に高値を示した (P < 0.05)。また、股関節屈曲時、80 %MVCにおいては、いずれの部位間にも有意な差を認めた (P < 0.05)。ワイヤ電極を用いて記録した各部位のEMGは、多チャンネル表面電極を用いて記録されたEMGと類似した結果となった。

考察

 膝関節伸展時および股関節屈曲時において、多チャンネル表面電極で記録された大腿直筋の筋活動は、部位間で異なるパターンを示した。膝関節伸展時では、中央部に近い部位で筋活動が高く、80 %MVC時において、標準化RMSは近位部よりも遠位部で有意に高値を示した。一方、股関節屈曲時では、60 % および80 %MVC時において、標準化RMSは遠位部よりも近位部で有意に高値を示した。これらの結果は、大腿直筋が部位依存的に異なる機能的役割を有することを示唆するものである。先行研究において、大腿直筋が有する運動神経枝は、近位部と遠位部に分かれていることが報告されており、部位依存的な神経筋活動が観察されたことを説明する結果であると言える。また、ワイヤ電極を用いて記録した筋内筋電図においても同様の傾向がみられていることから、近接筋からの筋電図の混入がもたらした結果でないことを証明した。

まとめ・結論

 本研究結果は、大腿直筋が部位依存的に異なる機能的役割を有する可能性を示唆するものである。

【解説】

 近年、二次元平面上に複数の電極が配列された電極を用いた筋電図の測定方法が報告されている(多チャンネル表面筋電図法)。この方法は、活動電位に時空間的情報を高い分解能で記録できることが特徴である。また、可視化に優れた方法であることから、従来の方法では観察できなかったような興味深い骨格筋の振る舞いを視覚的に評価可能であるとされている。Watanabeらは、この手法を用いて、膝関節角度と股関節角度を90°、130°、170°と変化させた際にも同様に、大腿直筋の部位依存的な神経筋活動が観察された。よって、大腿直筋における機能的役割の部位差は関節角度や筋長といった力学的条件が変化した際にも再現されることが示された。さらにWatanabeらは、歩行動作時の大腿直筋の神経筋活動を長軸方向に18個の表面電極を2列配列し筋電図データを所得した。その結果、立脚相では大腿直筋の全体が活動し、遊脚相では大腿直筋の近位側が選択的に活動することが明らかとなった。このことから、等尺性運動で観察された機能的役割の部位差が方向中にも同様に機能していることが示唆されている。

【引用・参考文献】

  1. Watanabe K, Kouzaki M, et al.: Non-uniform surface EMG responses to change in joint angle within rectus femoris muscle. Muscle Nerve. 2014; 50: 794-802.
  2. Watanabe K, Kouzaki M, et al.: Regional neuromuscular regulation within human rectus femoris muscle during gait. J Biomech. 2014; 47: 3502-3508.
  3. 渡邉 航平: 総説 筋メカニクス研究の最前線 大腿直筋における区画的な神経筋活動. 日本基礎理学療法学雑誌 2016; 19: 2-7 

2017年02月01日掲載

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