有酸素運動及び薬物治療はオートファジーを調節することで大腸癌におけるカヘキシアを抑制する

Pigna E, et al. : Aerobic Exercise and Pharmacological Treatments Counteract Cachexia by Modulating Autophagy in Colon Cancer. Sci Rep. 2016 May 31;6:26991.

PubMed PMID:27244599

  • No.1703-2
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院
    保健医療学研究科
    舘林 大介
  • 掲載:2017年3月1日

【論文の概要】

背景、緒言

 癌性カへキシアは著しい骨格筋量の減少を伴い、これは運動耐用能や生活の質の低下を招き、死亡率を上昇させる。近年カヘキシア患者において、身体活動性と生命予後には正の相関があることが報告されているが、そのメカニズムは明らかではない。
 オートファジーは全ての真核細胞において高分子構造体の代謝に寄与しており、オートファジーにおけるタンパク質分解の一連の流れであるautophagic flux(オートファゴソームの形成 ⇒ オートファゴソームへのリソソームの結合 ⇒ オートリソソームによるタンパク質分解)の過剰な活性化は筋萎縮を増悪させる。それゆえ、オートファジーの抑制は多くの筋原性疾患に重要な役割を果たすと信じられており、オートファジーの正常化は筋量を保つために必要である。

目的

 癌性カへキシアの実験動物モデルであるColon 26(C26)マウスを用い、随意運動もしくは薬理学的治療によって骨格筋量の低下が抑制される経路をautophagic fluxに着目し、検討することとした。

方法

 癌性カヘキシアは7週齢のBALB/c雌性マウスの腹側皮下に0.5 mm3のC26細胞のフラグメントを移植することで惹起し、移植19日後に解剖を行った。wheel running(WR)群の個々のゲージには直径15 cmの車輪を設置し、移植後初日からWRを自由に行わせた。薬理学的な処置として、C26マウスの腹腔内にオートファジーを誘導する薬剤であるAICAR(250 mg/kg)もしくはrapamycin(2 mg/kg)を毎日投与した。また、被験マウスの病態と比較するために、大腸癌患者に対し、筋生検を行った。

結果

 C26マウスでは除癌体重の減少とともに、前脛骨筋の筋重量及び筋線維の横断面積の低下が生じた。そして、オートファゴソーム形成の指標であるLC3B-Ⅱ及びp62の発現量の3倍以上に増加を伴っていた。また、大腸癌患者の筋生検においても、LC3B-Ⅱ及びp62が著しい増加が観察された。WRはC26マウスの除癌体重、前脛骨筋の筋重量及び筋線維の横断面積の低下を防止するとともに、LC3B-Ⅱとp62の前脛骨筋における発現量をコントロールマウスのレベルにまで抑制した。
 AICARもしくはrapamycinの投与は、どちらもC26マウスの前脛骨筋の筋重量と筋線維の横断面積の低下を抑制した。また、同筋において、AICARの投与はp62の発現を抑制し、一方でrapamycinの投与はLC3B-Ⅱとp62の両者の発現を抑制した。

考察

 オートファジーを生理学的なレベルに保つことはミスフォールディングが生じたタンパク質や損傷したオルガネラの除去に必要であり、凝集化タンパク質の蓄積を防止する。それゆえ、オートファジーは筋の恒常性の保持に重要な役割を果たしていると言える。オートファジーは筋萎縮に直接的に関与しており、我々はLC3B-Ⅱとp62のタンパク質発現レベルが、大腸癌患者の筋生検とC26マウスの筋において同様のパターンを示すことを発見した。これは、autophagic fluxが骨格筋で変化していることを示唆している。我々の知見と一致し、近年の研究で、骨格筋におけるオートファジーの過剰な活性化が、癌性筋萎縮に寄与することが明らかとされている。しかしながらその研究においては、コルヒチン投与によりオートファゴソーム形成後のautophagic fluxをブロックすると、C26マウスが致死に至ることから、癌性カヘキシアにおいては、オートファジーの完全な抑制は有害であると考えられる。さらに、AICARやrapamycinといったオートファジーを誘導する2つの薬剤が癌性カへキシアにおける筋の恒常性を改善するという事実は、カヘキシアがオートファジーによって抑制されうるという考えを支持するものである。
 運動は癌患者や癌モデルマウスの生存期間を延長させるが、癌患者が特に高齢である場合は、随意運動が困難な場合がある。したがって、電気刺激を用いたトレーニングなどの機能的神経調節の効果の検証、また随意運動がカヘキシアを抑制する分子メカニズムを特定することが今後重要であると考えられる。

まとめ・結論

 随意運動と本研究で用いた薬理学的治療はどちらもカヘキシアを抑制し、オートファジーを健常な筋のレベルにまで改善する能力を有することが明らかとなった。今後、癌性カヘキシアに対する治療戦略をさらに検討するべきである。

【解説】

 近年、多くの筋疾患において、タンパク質分解経路の一つであるオートファジー系の過剰な亢進や機能不全が、筋萎縮を招くことが明らかとなっている1,2)。癌性カへキシア状態の骨格筋においても、オートファゴソームの過剰な集積が生じることが明らかとされている3)。これはオートファゴソームが筋内にいわゆる“ゴミ”として蓄積していることを示している。本研究は持久性運動が、骨格筋のオートファゴソームのクリアランスを改善することで、癌性筋萎縮が防止されることを示唆している。つまり、運動によって、オートファゴソーム産生の抑制、リソソームの発現増加、リソソームとオートファゴソームの結合能の上昇のいずれかもしくは組み合わせの効果が生じた可能性が示唆されるが、この点に関しては明らかではない。今後、定量的な理学療法介入が、癌性筋萎縮及びautophagic fluxに及ぼす影響について詳細に検討することで、癌性筋萎縮に対する効果的な予防法が確立されることが期待される。

【引用・参考文献】

  1. Levine B, Kroemer G. Autophagy in the pathogenesis of disease. Cell, 132(1): 27-42, 2008.
  2. Sandri M, Coletto L, Grumati P, et al.: Misregulation of autophagy and protein degradation systems in myopathies and muscular dystrophies. J Cell Sci, 126(Pt 23): 5325-33, 2013.
  3. Penna F, Costamagna D, Pin F, et al.: Autophagic degradation contributes to muscle wasting in cancer cachexia. Am J Pathol, 182(4): 1367-78, 2013.

2017年03月01日掲載

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