神経筋電気刺激アシスト歩行は脳性麻痺痙直型片麻痺児の筋力や筋量を増加させる

Pool D, et al. : Neuromuscular electrical stimulation-assisted gait increases muscle strength and volume in children with unilateral spastic cerebral palsy. Dev Med Child Neurol. 2016 May;58(5):492-501.

PubMed PMID:26555148

  • No.1704-1
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院
    保健医療学研究科 
    井上 孝仁
  • 掲載:2017年4月1日

【論文の概要】

背景

 脳性麻痺痙直型片麻痺児は足関節周囲の筋萎縮、筋力低下、選択的運動制御の減少が生じ、歩行中の転倒に繋がる。近年、痙直型脳性麻痺児の尖足に対してNeuromuscular electrical stimulation (NMES)が行われ、筋量、筋力、選択的運動制御への付加的な効果が報告されている。しかし、コントロール群を設けてNMESによる効果を明らかにした研究や長期的な効果を検討した研究はみられない。

目的

 本研究の目的は、歩行中の足関節背屈筋へのNMESが脳性麻痺痙直型片麻痺児の筋量や筋力を改善するか明らかにすることである。

方法

 Gross Motor Function Classification System (GMFCS)レベルI~IIの痙直型32名(男性17名、女性15名;平均年齢 10歳8ヵ月)は8週間毎日NMES治療を行う群とコントロール群にランダムに分けられた。治療群はThe walk aid(Innovative Neurotronics, Austin, TX, USA)を使用してNMESを1日最低4時間、週6回、8週間行った。コントロール群は通常の理学療法としてストレッチ、神経発達学的治療、筋力トレーニングを行った。評価は8週後、14週後に行われた。前脛骨筋、前方コンパートメント、腓腹筋の筋量はMRIによって測定された。筋力はハンドヘルドダイナモメーターによる足関節背屈筋力とヒールレイズで測定された。また、下肢の選択的運動制御はAnkle selective motor control scale(Ankle SMC scale)とThe Selective Motor Control Assessment of the Lower Extremity (SCALE)を用いて測定された。

結果

 8週後に治療群において前脛骨筋、前方コンパートメント、腓腹筋内側頭、腓腹筋外側頭の筋量と足関節背屈筋力がベースラインと比較した場合だけでなく、コントロール群と比較した場合にも有意な増加を示した。14週後に治療群においてベースラインと比較すると前脛骨筋と腓腹筋外側頭の筋量が有意な増加を示していた。しかし、14週後のコントロール群と比較した場合は腓腹筋外側頭の筋量だけが有意に大きな差を示した。選択的運動制御は治療群で8週後、14週後に有意な改善を示したが、コントロール群では8週後のみ有意な改善を示した。両群間の選択的運動制御は8週後、14週後に有意な差が認められなかった。

考察

 8週間のNMESを用いた歩行は脳性麻痺痙直型片麻痺児の筋量や筋力を増加させた。このことから脳性麻痺児に対するNMESの使用が支持される。しかしこれらの変化は使用依存性があり、8週間の治療期間の後の長期的な効果は認められなかった。そのため対象者によって使用頻度を考慮する必要性がある。脳性麻痺痙直型片麻痺児に対するNMESの治療の目標は次のどちらかになると考えられる。(1)筋量、筋力を増加させ、NMESによる装具的効果を維持する。(2)筋量、筋力を増加させ、選択的運動制御への治療効果を得る。

【解説】

 本論文は、脳性麻痺児の足関節背屈筋に対してNMESを行い、筋量や筋力の増加を検討した研究である。NMESの効果を明らかにするためにコントロール群を設け、長期的な効果を検討した最初の論文である。
NMESによる筋量、筋力の増加が認められ、脳性麻痺に対する治療として有用であると考えられる。現在、選択的運動制御への介入はロボットを用いた訓練やボツリヌス療法が報告されているが、本論文では筋量、筋力の改善に伴い選択的運動制御も改善した対象者もみられた。このことは選択的運動制御に対する介入の一助になると考えられる。

【引用・参考文献】

  1. Chen K, Wu YN, et al.: Home-Based Versus Laboratory-Based Robotic Ankle Training for Children With Cerebral Palsy: A Pilot Randomized Comparative Trial. Arch Phys Med Rehabil. 2016; 97(8):1237-43.
  2. Sätilä H, Huhtala H: Botulinum toxin type A injections for treatment of spastic equinus in cerebral palsy: a secondary analysis of factors predictive of favorable response. Am J Phys Med Rehabil. 2010; 89(11):865-72.

2017年04月01日掲載

PAGETOP