臨床評価、BMIによるフットボール選手の内反捻挫発生の予測

Gribble PA, et al. : Prediction of Lateral Ankle Sprains in Football Players Based on Clinical Tests and Body Mass Index. Am J Sports Med. 2016 Feb;44(2):460-7.

PubMed PMID:26646517

  • No.1707-1
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院
    保健医療学研究科
    小宮山与一
  • 掲載:2017年7月1日

【論文の概要】

背景、緒言

 急性足関節内反捻挫(以下、内反捻挫)は、スポーツ中に発生する足関節外傷の中で最も頻度が多く、これまでスポーツ選手の活動制限や後遺症に伴う様々な影響が多数報告されている。そのため、内反捻挫に対する適切な治療法や効果的な予防プログラムの確立が望まれている。

目的

 本研究の目的は高校生、大学生フットボール選手に対して、Star Excursion Balance Test(以下SEBT)、Functional movement screen (以下FMS)、BMIが内反捻挫発生の危険予測因子となるかを明らかにすることとする。

方法

 対象は、高校生・大学生フットボール選手539名(17.33±2.28歳)。内反捻挫は、受傷時に足関節に過度な回外が生じ、足関節の外側部の疼痛、腫脹、荷重制限が生じた場合と定義し、明らかな骨折が疑われる者は除外した。
 シーズン開始の初日に認定アスレティックトレーナーが各種テスト(SEBT/FMS/下肢長)を計測した。シーズン中の内反捻挫の発生を応答変数として、ロジスティック回帰分析とオッズ比より内反捻挫発生の危険予測因子について検証した。

結果

 SEBT前方スコアは内反捻挫群で65.51% ± 7.90% 、非受傷群で69.67% ± 7.60%(P <.001) と捻挫群で有意に低値を示した。BMIは内反捻挫群で29.32 ± 6.08 kg/m2 、非受傷群で26.70 ± 4.64 kg/m2 (P <.001)と捻挫群で有意に高値を示した。ロジスティック回帰分析の結果、SEBT前方スコアのオッズ比は 2.84(P<.001) 、BMIのオッズ比は2.08(P = .01)とそれぞれ内反捻挫発生の危険予測因子となることが示された。同様に、SEBT前方スコアとBMIの組み合わせではオッズ比は1.71(P<.001)と危険予測因子となることが示された。FMSに関しては、群間差が示されなかった(P=0.322)。 

考察

 本研究より、高校生、大学生フットボール選手においてSEBT前方スコアの低下は内反捻挫発生の危険予測因子となることが示された。先行研究では、大学生アスリートを対象とした、SEBTの簡易検査として応用されているY-balance testと下肢外傷発生との関連が報告されていた。しかし、本研究のサンプル数は先行研究と比較し多く、またフットボール選手を限定としてSEBTと内販捻挫発生の関連を示した報告としては初めてである。BMIにおいても同様に、高値の選手は約2倍発生リスクが高まることが示された。フットボール選手における、内反捻挫発生とBMIとの関連を示した報告は本研究が初めてである。
 本研究の限界として、BMIが自己申告アンケートから算出されたこと、交絡要因の検討が十分になされていないことが挙げられる。今後はこれら要因が整理された、より発展的な内反捻挫の危険因子に関する報告が望まれる。

まとめ・結論

 高校生、大学生フットボール選手において、SEBT前方スコアの低下とBMIの高値は内反捻挫発生の危険因子となることが示された。以上のように、内反捻挫の発生を予測できる臨床評価法を明らかにすることは、フットボール中の内反捻挫発生の危険性を低減させるための効果的な予防プログラムを開発するための一助となり得る。

【解説】

 これまでの先行研究において、内反捻挫の内的要因に関する危険因子に関して、一致した見解が得られているものは限られている。近年、Witchallsらにより足関節外傷を対象とした内的要因に関するレビュー論文が報告されたが1)、対象の外傷定義を内反捻挫と限定している調査報告は少ない。また、初発者と再発者を明確に区別したものや発生型を明確に区別した報告も限られている。
 その中で、既往歴に関しては、これまでの先行研究より捻挫既往歴を有している場合はハイリスクであるということで概ね一致した見解が得られている。Noronhaらは、大学生121名(男性57名/女性64名)を対象とした1年間の前向きコホート調査にて、捻挫既往者はハザード比2.21になると報告した2)。Hillerらは、若年バレエダンサー115名(14.2±1.8歳)に対する13ヵ月間の前向きコホート調査にて、捻挫既往者の場合、反対側の内反捻挫受傷の発生率はハザード比3.90になると報告した3)。McHughらは、高校生アスリート169名に対する2年間の前向きコホート調査にて、内反捻挫の発生率は、既往歴者1.76件/1000 athlete exposures (AE)、非既往者0.76件/1000AEと有意差を認めたと報告した4) 
​ 
また、内反捻挫と姿勢制御について、これまで多くの報告がなされているが、一致した見解は得られていない。その要因として各研究間で用いられている姿勢制御に対する評価指標の信頼性が低いことが挙げられている。McHughらは、高校生アスリート169名に対し、傾斜台上での片脚立位保持機能を姿勢制御の評価指標とし、捻挫受傷群と非受傷群で比較したが、有意な相関関係は認められなかったと報告した4)。Hillerらは、若年バレエダンサー115名に対し、ドゥミポアント位での姿勢保持機能と内反捻挫発生との関連を調査したが、やはり群間差は認められないと報告した3)。上記のように、姿勢保持機能の評価指標として静的な保持能力を用いその関連性を調査するものが散見される中、Noronhaらは、SEBTという動的な姿勢制御機能に対する評価指標を用い内反捻挫との関連性を調査した。その結果、SEBT後外側スコア(リーチ距離と下肢長の割合)が80%以下の場合はリスクの増加につながると報告した2)。その要因として後外側方向への下肢リーチ動作は足部内反モーメントを増大させ、より受傷に関与する長腓骨筋などの活動要求が高まり、結果的に内反捻挫受傷との関連を示したと考えられている。以上より、近年SEBTと内反捻挫の発生に関する報告が散見され始めており、今後内反捻挫の内的要因に関する危険因子を確立するためのさらなる報告が期待される。

【引用・参考文献】

  1. Witchalls J, Blanch P, Waddington G, Adams R. Intrinsic functional deficits associated with increased risk of ankle injuries;a systematic review with meta-analysis.British journal of sports medicine 2012:46:515-23.
  2. De Noronha M, Franca LC, Haupenthal A, Nunes GS. Intrinsic predictive factors for ankle sprain in active university students: a prospective study. Scandinavian journal of medicine & science in sports 2013;23:541-7.
  3. Hiller CE, Refshauge KM, Herbert RD, Kilbreath SL. Intrinsic predictors of lateral ankle sprain in adolescent dancers: a prospective cohort study. Clinical journal of sport medicine : official journal of the Canadian Academy of Sport Medicine 2008;18:44-8.
  4. McHugh MP, Tyler TF, Tetro DT, Mullaney MJ, Nicholas SJ. Risk factors for noncontact ankle sprains in high school athletes: the role of hip strength and balance ability. The American journal of sports medicine 2006;34:464-70.

2017年07月01日掲載

PAGETOP