地域在住高齢者コホート研究におけるフレイル表現型の有症率と死亡リスク

Garre-Olmo J, Calvo-Perxas L, Lopez-Pousa S, de Gracia Blanco, M.
Vilalta-Franch, J. Prevalence of frailty phenotypes and risk of mortality in a community-dwelling elderly cohort. Age Ageing. 42(1):46-51, 2013.

PubMed PMID:22454134

  • No.1710-1
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院保健医療学研究科
    木原 由里子
  • 掲載:2017年10月10日

【論文の概要】

緒言

 専門家らは、フレイルが健康への脆弱性を表しているということを認識はしているものの、それに関するコンセンサスや標準的な評価尺度は未だ得られていない。フレイルの主要な評価尺度には、身体的変数のみに依存する身体的フレイル(PFP)と、フレイルが身体や認知機能の障害および心理社会的危険因子など複数の領域における欠損の蓄積によるものであると仮定する2つがある。しかしながらいずれも、フレイルのサブタイプについては区別されておらず、各フレイルのタイプが死亡率の予測因子および死亡率にそれぞれ異なる影響を有する場合、有病率および予測因子をタイプ別に評価することが重要である。
 本研究では、74歳以上の地域在住高齢者コホートにおいて、4年間の虚弱の有病率および死亡率を調査した。本研究では、フレイルは、「障害のない人における多因子性の状態」として定義され、これは因子の累積効果だけでなく、フレイル指数に含まれる因子の質的性質(身体的や精神的、社会的)についても考慮した。これにより、PFP、精神的フレイル(MFP)および社会的フレイル(SFP)の3つの別々のフレイルタイプの操作上の定義が可能になった。

目的

 本研究の目的は3つのフレイルのタイプの発生率とそれに伴う致死リスクを明らかにすることであった。

方法

<対象者とデザイン>
 本研究では、スペイン、ジローナにあるAnglès Primary Health Care Area の中の8つの村(農村部)から、74歳以上の居住者をリクルートした。取り込み基準は、対象の地域が主たる住居であること、除外基準は、長期ケア施設に入居していること、また、参加予定者であっても5回の試みにて連絡が取れない場合とした。

<データ測定と変数>
 面接調査を実施し、対象者の年齢、性別、婚姻状況、教育に関する人口統計情報を収集した。また、世界保健機関・障害評価面接基準(WHODAS 2.0)を用いて、個人の機能的自立度を評価した。さらに、疾患の数、栄養状態、服薬数、MMSE、Geriatric Depression Scale-5(GDS-5)、主観的脳年齢、QOL、社会的ネットワーク、社会的関係について聴取され、片脚立位バランス、聴覚、視力についても調査した。データの収集は2006年11月1日から2007年5月31日まで実施され、4年後、Anglès Primary Health Care Areaの電子カルテ情報を参照し、すべての対象者の生存状態を確認した。

<統計解析>
 各フレイルタイプの有病率およびフレイルタイプの同時発生を評価した。各フレイルタイプの有病率における性別および年齢との関連性を調べるため、ロジスティック回帰分析を行った。また、Cox比例ハザード回帰分析を実施して、死亡リスクを算出した。
 結果は、絶対数およびパーセンテージ、平均、標準偏差、オッズ比および95%信頼区間(95%CI)として表し、有意水準は5%とした。

結果

 対象に抽出された1,245名のうち875名(82%)が参加した。平均年齢は81.7±4.8歳、女性は509名(58.2%)であった。 研究参加者と非参加者は、性別や年齢に差はなかった。 非参加者の平均年齢は81.4歳(Mann-Whitney U = 591.0、P = 0.427)、女性は60.3%(χ2= 0.16、df = 1、P = 0.681)であった。
 フレイルの有病率は38.8%であった(95%CI = 33.9-43.6; n = 155)。 PFPの有病率は17.3%(95%CI = 13.4-21.1; n = 69)であり、非罹患者と比較して性別および年齢に有意差があった。 MFPの有病率は22.8%(95%CI = 18.1-27.0; n = 91)であり、性別や年齢との関係は認められなかった。 また、SFPの有病率は6.8%(95%CI = 4.2-9.3; n = 27)であり、性別との関連が認められた。フレイルタイプの重複を調べたところ、MFPのみを有するものが最も頻繁なタイプ(95%CI = 33.2-49.3)であり、続いてPFPのみ(95%CI = 22.8-37.9)、 PFPおよびMFP(95%CI = 5.7-16.2)であった。ロジスティック回帰分析では、PFPリスクは性別が女性であることと加齢により高まるという結果が得られた。
 フレイルではない人と比較して、いずれか1つのタイプを持つ人の死亡リスクは1.9倍(95%CI = 1.1-3.7)であり、2つのタイプを有する人は3.9倍(95%CI = 1.5-9.8)、3つのタイプを持つ人では10.4倍(95%CI = 2.7-41.6)であった。

考察

 本研究の結果より、これまでのほかの研究同様、フレイルは社会人口学的要因と関連し死亡リスクを増加させた。しかしながら、既存の文献と大きく異なり、本研究では各フレイルタイプにおいて、有病率が異なることを明らかにし、それぞれの重複についても調べることができた。
 SFPを呈する対象者のほぼ半数も、精神的または身体的タイプ(またはその両方)を示したが、残りの対象者は、SFPのみを示していた。この結果は、社会的脆弱性とフレイルとの関係に関する以前の研究を支持している。イギリスの高齢者縦断研究の結果では、個人および近隣の社会経済的要因が減少するにつれて、フレイルが増加し、社会的孤立または脆弱性がフレイルの予測因子となることが示唆された。
 3つの異なる表現型を区別することで、性別、年齢、婚姻状況などの社会的要因の影響を別々に分析することが可能となった。女性のフレイルが多いことは繰り返し報告されており、本研究においても女性が男性よりもPFPを発現しやすいことが確認された。MFPは性別によって影響を受けず、男女に同様の影響を与えたこと、また、加齢による影響はPFPにのみ関連していたことは注目すべきである。
 研究の限界として、第一に、対象者は地域在住高齢者であったが、農村部のデータを代表するものであり、都市部の人口にはあてはまらない。第二に、フレイル指標のいくつかは、自己報告であったため、バイアスがかかった可能性がある。第3に、本研究における観察期間は、死亡率に対するMFPの効果を検出するのに十分な長さではなかった可能性がある。

まとめ・結論

・本研究では、質的に異なる3つのフレイルタイプの有病率とそれに伴う死亡リスクを調査した。
•フレイルタイプ別の有病率は、社会人口学的特徴と関連していた。
・障害のない対象者における欠損の累積に基づいて判別したフレイルタイプは、死亡リスクを増加させた。

【解説】

 高齢社会における健康づくりとして、介護予防や健康増進に注目が集まっている。その中で近年注目されてきているのがフレイル(=高齢者の虚弱)である。疾病予防だけでなく、要介護にいたる原因であるフレイル予防の認識がきわめて重要になっている1)。フレイル研究はこれまで身体的フレイル(本文献ではPFPにあたる)を中心に発展してきたが、身体的側面のみならず多面的に解釈することの重要性が認識され始め、フレイルの新たなモデルとして、精神・心理的フレイル(psychological frailty)や社会的フレイル(social frailty)といった概念が提唱された2)。日本老年医学会によりフレイルは「筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念である」とも宣言されている3)
 本文献で注目すべきは、フレイルを身体的、精神・心理的、社会的側面に区別して死亡リスクのほか健康に関する各因子との関連を調査しているところである。フレイルを身体的側面だけでなく質的に区別し、それぞれの有症率や、どの表現型が多いのか、また、社会的フレイルが単独で存在する割合が多いことも明らかにしている。他の研究でも社会的フレイルは、死亡率や認知機能の低下など様々な健康障害と関連していることが報告されている2, 4)。以上のことから、今後は更なる研究に加えてフレイルの各表現型に合わせた予防の検討が必要とされる。

【引用・参考文献】

  1. 葛谷雅文, 雨海照祥: フレイル 超高齢社会における最重要課題と予防戦略. (第一版). 東京, 医歯薬出版, 2015.
  2. Gobbens RJ, van Assen MA, Luijkx KG, et al.: The Tilburg Frailty Indicator: psychometric properties. J Am Med Dir Assoc. 11(5):344-355, 2010.
  3. 日本老年医学会: フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント. https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf, (2017-05-03)
  4. Zunzunegui MV, Alvarado BE, Del Ser T, et al.: Social networks, social integration,and social engagement determine cognitive decline in community-dwelling Spanish older adults. Journal of Gerontology: Social Sciences. 58B(2):S93–S100, 2003.

2017年10月10日掲載

PAGETOP