脳卒中患者に対する筋力増強運動は筋力とADLを改善する―システマティックレビュー―

Ada, Louise; Dorsch, Simone; Canning, Colleen G. Strengthening interventions increase strength and improve activity after stroke: a systematic review.Australian Journal of Physiotherapy, 2006, 52.4: 241-248.

PubMed PMID:17132118

  • No.1810-2
  • 執筆担当:
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
    三根 幸彌
  • 掲載:2018年10月23日

【論文の概要】

 本研究はメタアナリシスを伴うシステマティックレビューで、脳卒中患者に対する筋力増強運動が筋力、痙性、ADLに及ぼす効果を検討した。MEDLINE、CINAHL、Embase、PEDroの4つの電子データベースを用いて系統的検索が行われた。論文はPEDroスケールを用いて評価され、最終的に21編が選択された。PEDroスケールの平均点は10点中4.7点であった。
 メタアナリシスの結果、筋力増強運動が筋力を改善するうえでの総合的な効果量は0.33(95%信頼区間0.13~0.54)であった。病期と筋力のベースラインによって分類した場合、急性期・筋力大幅に低下:0.33(-0.05~0.72)、急性期・筋力低下:0.45(0.12~0.78)、慢性期・筋力大幅に低下:0.91(-0.02~1.84)、慢性期・筋力低下:0.18(-0.22~0.58)であった。筋力増強運動が痙性に及ぼす総合的な効果量は、-0.13(-0.75~0.50)であった。筋力増強運動がADLに及ぼすうえでの総合的な効果量は、0.32(0.11~0.53)であった。病期と筋力のベースラインによって分類した場合、急性期・筋力大幅に低下:0.46(0.11~0.81)、急性期・筋力低下:0.56(0.14~0.98)、慢性期・筋力大幅に低下:0.63(-0.27~1.54)、慢性期・筋力低下:0.22(-0.11~0.54)であった。
 脳卒中患者に対する筋力増強運動は、痙性を悪化させることなく筋力とADLを改善させるというエビデンスが得られた。

【解説】

 「筋力増強運動によって脳卒中患者の痙性が高まり、運動機能が低下してしまうのではないか?」という論争が存在した時代もあったが、1990年代に筋力増強運動による痙性に対する悪影響はないという研究が発表され、脳卒中後のリハビリテーションに筋力増強運動を取り入れられるようになったと学術的にはいわれている1)。しかしながら、本邦の教育・臨床現場においてはそのような認識は完全には浸透していない。脳卒中を専門とする理学療法士に対して2004年に本邦で行われたアンケート調査によると、20.8%の理学療法士が麻痺側に対する筋力増強運動に対して否定的な回答を示した2)。主な理由として、「痙縮、異常パターンを増悪させる、回復を阻害する (46.4%)」、「動作能力、ADL 能力の向上に結びつかない(23.2%)」といった回答が挙げられ、いわゆる専門家の主観的意見と現実(研究エビデンス)との乖離が明らかとなった。
 脳卒中患者に対する筋力増強運動が筋力、痙性、ADLに及ぼす影響についての包括的なシステマティックレビューは現在も少ない。本研究はランダム化比較試験を対象としたメタアナリシスを伴うシステマティックレビューであり、研究デザインとしてエビデンスレベルは最も高いため、その結果の信頼性は高いと考えられる3)。本研究によると、脳卒中患者に対する筋力増強運動は、病期に関係なく、痙性を悪化させることなく筋力とADLを改善させるというエビデンスが得られた。筋力、痙性、ADLの評価尺度として、膝関節伸展・足関節底屈・肩関節屈曲・肘関節伸展・手関節背屈における最大筋力、Modified Ashworth Scale,Brunnstrom Stages of Recovery,Barthel Index,Upper‐limb Fugl-Meyerなどの検査が用いられていた。他のシステマティックレビューによると、段階的な抵抗運動による筋力増強運動は、亜急性期もしくは慢性期の脳卒中患者の下肢筋力、歩行距離、歩行速度、バランスを改善させると報告されている1)。これらの研究報告をふまえ、脳卒中患者に対して病期に依らず積極的な筋力増強運動を行うことが推奨される。

【引用・参考文献】

  1. Wist S, Clivaz J, et al:Muscle strengthening for hemiparesis after stroke: A meta-analysis.Annals of physical and rehabilitation medicine.2016;59(2): 114-124.
  2. 松田梢,内山靖:本邦における 「痙縮筋に対する筋力増強運動」 についての理学療法士の認識.理学療法科学. 2007;22(4): 515-520.
  3. Merlin T, Weston A, et al:Extending an evidence hierarchy to include topics other than treatment: revising the Australian'levels of evidence'.BMC medical research methodology.2009;9(1):34.

2018年10月23日掲載

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