脳性麻痺患者における股関節観血整復術のシステマティックレビュー

de Souza RC, Mansano MV, Bovo M, Yamada HH, Rancan DR, Fucs PM1, Svartman C, de Assumpção RM : Hip salvage surgery in cerebral palsy cases: a systematic review. Rev Bras Ortop. 2015 Jun 16;50(3):254-259.

PubMed PMID:26229926

  • No.1812-1
  • 執筆担当:
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
    楠本 泰士
  • 掲載:2018年12月1日

【論文の概要】

 筋の痙性や筋緊張のインバランスは股関節脱臼の原因となり、大腿骨の頚体角や前捻角に持続的な影響を与えることが懸念されており、慢性的な疼痛やさらなる脱臼につながる。股関節脱臼の程度が重症な場合に、股関節観血整復術が行われる。
 本研究では、脳性麻痺患者に対する股関節観血整復術後の結果を比較するためにシステマティックレビューを行った。1970年から2011年までに発表された脳性麻痺患者の股関節観血整復術に関する論文をEmbaseとMedline、PubMed、Cochrane Library、SciELOデータベースにて調査した。48編の論文が抽出され、38編は手術技術や対象の年齢、経過観察期間や結果の不備などにより除外された。採用した10編の症例の合計は175名で、術後経過観察期間は22~98カ月、対象の年齢は5~26歳だった。どれもエビデンスレベルは4と対照群を伴わない術前後の比較であった。
 本研究の結果は、統計学的に分析を行うに至らなかったが、脳性麻痺の症状が多岐にわたり重症度の幅も広いことから、股関節観血整復術を行う際には個々の患者を評価し、対応することの重要性を示唆している。

【解説】

 脳性麻痺児では二次障害として股関節脱臼や亜脱臼が好発し、粗大運動機能が重度であればあるほど、股関節脱臼の発生率は高くなるといわれている1,2)。股関節脱臼は痛みを伴わずに徐々に進行することで発見が遅れ、将来的な股関節の関節拘縮や疼痛の出現、不良姿勢へとつながることによる側弯の増悪などが問題とされている。股関節脱臼に対する治療としては整形外科的手術があり、対象の脱臼の状態や運動機能などを考慮して筋解離術、腱移行術、観血整復術、骨切り術などが行われている。股関節観血整復術を行う症例は、股関節脱臼がかなり進行している者であり、筋解離だけでは脱臼の改善が見込めない場合が多い。その場合でも、今の日本では第一手術として股関節観血整復術を選択することはなく、事前に股関節筋解離術を行い、股関節周囲の過緊張状態を軽減しておくことが重要と考えられている。筋解離術は日本と海外では術式が大きく異なり、海外に比べて日本では複数の筋を様々な延長方法で調整することがある3)。また、股関節脱臼が重度である場合は、筋解離術や観血整復術のみで整復することは困難であり、観血整復術と同時に大腿骨減捻内反骨切り術を行うことも多い。
 理学療法を行う際には股関節脱臼の状態を考慮して関節可動域練習を行ったり、股関節脱臼の状況や粗大運動レベルが臼蓋の状況に与える影響などを知っておくなど4)、将来的な展望を持っておくことが重要である。本研究で述べられているとおり、脳性麻痺患者に対する整形外科手術後の状態変化に関しては、エビデンスレベルの高い研究はされていない。理学療法の分野では術前後の機能変化や参加・活動レベルの変化なども含めて、今後の発展が期待されている。

【引用・参考文献】

  1. Kentish M, et al.:  Five-year outcome of state-wide hip surveillance of children and adolescents with cerebral palsy. J Pediatr Rehabil Med. 2011; 4(3): 205-217.
  2. Terjesen T: The natural history of hip development in cerebral palsy. Dev Med Child Neurol. 2012; 54(10): 951-957.
  3. 松尾隆:整形外科的選択的痙性コントロール手術(OSSCS).クリニカルリハビリテーション.2008;17(11):1063-1071.
  4. 楠本泰士, 他:脳性麻痺児における粗大運動機能別の股関節筋解離術前後5年間の股関節脱臼の変化.理学療法学.2016;43(4):293-299.

2018年12月01日掲載

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