脳性麻痺片麻痺児における臨床評価の妥当性

Wagner LV, Davids JR, Hardin JW: Selective Control of the Upper Extremity Scale: validation of a clinical assessment tool for children with hemiplegic cerebral palsy. Dev Med Child Neurol. 2016 Jun;58(6):612-617.

PubMed PMID:26526592

  • No.1901-2
  • 執筆担当:
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
    楠本 泰士
  • 掲載:2019年1月7日

【論文の概要】

 脳性麻痺片麻痺児の上肢機能と選択的運動コントロールの関係を調査し、客観的で妥当性のある上肢の選択的運動コントロールの評価法の確立のために、研究が行われた。既定の動きをビデオカメラにて撮影し動作を採点する上肢の随意性検査としてSelective Control of the Upper Extremity Scale (SCUES)を開発した。内容的妥当性の検証は、経験年数が2~30年の臨床家8名で検討された。1名あたり34個の内容的妥当性に関する設問があり、content validity ratio を用いて最終的にSCUESを完成させた。作成されたSCUESを使用し、6名の作業療法士によって検者内・検者間信頼性の検証が行われた。検者内信頼性、検者間信頼性ともに肩関節や肘関節、前腕部分などで検証され、級内相関係数は0.60~0.76の範囲だった。構成概念妥当性の検証では、痙直型脳性麻痺片麻痺児25名(6~18歳)を対象にSCUESとShriners Hospitals Upper Extremity Evaluation (SHUEE)のspontaneous functional analysis section、Manual Ability Classification System(MACS)、Box and Block test(BBT)が行われた。SCUESはSHUEEと高い相関関係があり(r=0.69、p=0.00)、MACS(r=-0.24、p=0.37)やBBT(r=0.47、p=0.07)とは相関がなかった。SCUESはビデオを用いた脳性麻痺児の上肢の評価ツールとしての有用性が示唆された。

【解説】

 脳性麻痺患者における随意運動の低下は、痙性や関節拘縮の進行と重なることで様々な障害につながると考えられている1)。随意運動の評価は、運動障害を構成する重要な因子の一つと考えられているが、その評価は日本をはじめ世界的に行われてこなかった2)。Fowlerらが2009年に脳性麻痺痙直型両麻痺患者における下肢随意性の評価法としてSelective Control Assessment of the Lower Extremity (SCALE)を開発してから3)、随意運動と粗大運動能力4) や筋力との関係5)、整形外科手術後のSCALEの変化6) などが日本でも報告されるようになってきた。SCUESはSCALEと同様に15分以内に評価が終了でき、一定の信頼性が確保されている点で臨床応用が可能な評価である。しかし、日常生活上の両上肢の機能レベルを示すMACSや粗大な器用さを示すBBTとの関係性は確認されなかったことから、臨床でSCUESを使用する際はSCUESの特性を把握しておくことが重要と思われる。
 SCUESは肩関節の内外転、肘関節の屈伸、前腕の回内外、手関節の掌背屈、手指や母指の握持動作から採点される。BBTは上肢全体の粗大な器用さをみる指標であるが、本研究ではその関係性はなかったと結論付けられている。しかし、SCUESとBBTの相関におけるp値は0.07と低く、対象も25名であったことから、両者には関係性がないのではなく、対象数を増やすことや対象の取り込み基準を検討すること、その他の上肢機能評価との関係性を明らかにしていくことが、今後は重要であると考えられる。また、本研究は片麻痺児のみの検討であったことから、脳性麻痺両麻痺児や四肢麻痺児での上肢随意性と上肢機能との検討の必要性が考えられる。

【引用・参考文献】

  1. Voorman JM, et al.: Prospective longitudinal study of gross motor function in children with cerebral palsy. Arch Phys Med Rehabil. 2007; 88: 871–876.
  2. Engsberg JR, et al.: Predicting functional change from preintervention measures in selective dorsal rhizotomy. J Neurosurg. 2007; 106: 282–87.
  3. Fowler EG, et al.: Selective Control Assessment of the Lower Extremity (SCALE): development, validation, and interrater reliability of a clinical tool for patients with cerebral palsy. Dev Med Child Neurol. 2009; 51(8): 607-614.
  4. Kusumoto Y, et al.: Reliability and validity of the Japanese version of the selective control assessment of the lower extremity tool among patients with spastic cerebral palsy. J Phys Ther Sci. 2016;28(12):3316-3319.
  5. Kusumoto Y, et al.: Relation of selective voluntary motor control of the lower extremity and extensor strength of the knee joint in children with spastic diplegia. J Phys Ther Sci. 2016;28(6):1868-1871.
  6. 高木健志, 他 : 脳性麻痺痙直型患者の尖足変形に対する足関節筋解離術と下肢随意性の関係. 日保健科会誌.2016; 19(2): 81-85.

2019年01月07日掲載

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