心不全患者の初回入院後における在宅介護と介護施設の利用率:全国規模のコホート研究

Rorth R, Fosbol EL, Kragholm K, et al. Initiation of domiciliary care and nursing home admission following first hospitalization of heart failure patients: a nationwide cohort study. Clin Epidemiol. 2018 Aug 2; 10:917-930.

PubMed PMID:30123004

  • No.1902-2
  • 執筆担当:
    東京工科大学医療保健学部理学療法学科
    日下さと美
  • 掲載:2019年2月1日

【論文の概要】

 デンマークに在住する心不全患者が退院後に在宅介護(入浴や食事、更衣などの基本ケア、または買い物や掃除などのIADL、または食事サービスを提供)または介護施設入所を開始した割合と、その利用者の特徴を明らかにすることが目的である。対象はデンマークの個人情報保護機関に2008年から2014年に登録された国民のうち、2008年に心不全による初回入院後生存して退院した37,735名とした。対照群は心不全患者1名につき心不全の診断がない5名を性・年齢をマッチングして割り当て187,735名とした。分析は両群の在宅介護または施設入所累積発生率と発生期間を調整変数として年齢・性別・配偶者の有無、併存疾患、競合リスクとして死亡を設定し比較した。5年間調査した結果、在宅介護の利用率は心不全患者24.1%(hazard ratio; HR 2.02 [1.96-2.09])、対照群9.2%、介護施設入所は心不全患者3.9%、対照群1.7%(HR 1.91[1.77-2.06])であった。死亡は在宅介護利用では心不全患者21.5%、対照群6.0%であり、施設入所では心不全患者31.8%(HR 1.91[1.77-2.06])、対照群8.4%であった。在宅介護利用期間は心不全患者152日、対照群646日であり、施設入所期間は心不全患者464日、対照群917日であった。在宅介護に至る要因は高齢(HR 1.08[1.07-1.08]/1年増)、独居(男性HR2.22[2.15-2.30]、女性HR1.98[1.90-2.06])、COPD(HR1.88[1.83-1.94])の特徴があり、介護施設入所では高齢(HR 1.91[1.77-2.06])、独居(男性HR 2.25[2.08-2.43]、女性HR2.02[1.83-2.23])、脳血管疾患の併存(HR 2.71[2.53-2.90])であった。心不全患者では配偶者や家族のサポートや併存症が退院後のサービス利用に関わる。

【解説】

 心不全患者の日常生活やIADLには加齢や心機能が影響するのみならず配偶者との死別や家族も高齢になると家庭からの支援が受けられない場合もある1)。本研究から心不全患者では対照群よりも退院後に在宅介護や介護施設利用率が高いことが明らかとなり、共通して高齢、独居がその要因となっていた。平均寿命の延伸は加齢による機能低下のほか併存疾患や症状も蓄積されるため在宅介護や施設入所がより必要となり2)、とくに女性で見受けられると考えられる。一方、在宅介護を受ける高齢な男性は死亡率が高い報告もある3)。これは配偶者のサポートが関与しており、女性は男性よりも長寿であるためより健康な配偶者が世話をする場合が多い。そのため男性では配偶者の存在がサービス利用に影響しやすい。併存疾患もサービス利用に影響していて在宅介護ではCOPDが、施設入所では脳血管疾患の併存がとくに関わっていた。COPDでは動作時の息切れから生活範囲が狭小しやすく、エネルギー消費の増大を招きやすい。そのため在宅介護が求められたと思われる。
 本研究の制限としてNYHA(New York Heart Association)分類や心機能の調査が行われておらず身体活動量や心機能が生活範囲や運動耐容能に及ぼす影響が示されていないが、心不全による症状と重なり在宅介護の必要性を増大させる。在宅介護の記録は提供したサービスの内訳の時間数が明確に記録されていない一方で、施設入所は在宅介護よりも提供したサービスの内訳が明記されていることから生活環境は整っていることが明らかである。また施設内生活では買い物や外出などIADLに関わる場面もないことから連続的な動作や広範な生活範囲は求められない。施設入所ではFIM (Functional Independence Measure)の運動項目の低下は90日以内の再入院率を増加させる報告もあるように4)、セルフケア、排泄、移乗・移動能力の低下によって配偶者の存在や家族の支援がなければ在宅での生活は難しいことから入所が必要であったと考えられる。
 以上から心不全による初回入院の患者は在宅介護や施設入所を心不全のない患者よりも利用しやすく、退院後のサービス導入の基準として高齢、独居、併存疾患が挙げられる。

【引用・参考文献】

  1. Wenger NK: Quality of life:can it and should it be assessed in patients with heart failure?. Cardiology 1989;76:391–398.
  2. Gottlieb SS et al: The influence of age, gender, and race on the prevalence of depression in heart failure patients. J Am Coll Cardiol. 2004;43(9):1542–1549.
  3. M.A. Muñoz et al: Determinants of survival and hospitalization in older, heart failure patients receiving home healthcare. Int J Cardiol 2016 15;207:145-9.
  4. Kitamura M et al: Relationship between Activities of Daily Living and Readmission within 90 days in Hospitalized Elderly Patients with Heart Failure. Biomed Res Int 2017; 2017:7420738.
     

 

2019年02月01日掲載

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