認知症者に対する中等度から高強度の運動療法(Dementia And Physical Activity:DAPA試験):無作為化比較試験

Lamb SE, Sheehan B, et al.: Dementia And Physical Activity (DAPA) trial of moderate to high intensity exercise training for people with dementia: randomised controlled trial. BMJ. 2018; 361: k1675.

PubMed PMID:29769247

  • No.1902-1
  • 執筆担当:
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
    忽那 俊樹
  • 掲載:2019年2月1日

【論文の概要】

 この無作為化比較試験では、軽度から中等度の認知症を呈する者に対する中等度から高強度の有酸素運動と筋力増強運動の効果を検証し、それらの介入が認知障害の進行を遅らせることはないことが示された。
 認知症者494例(平均年齢77歳、男性61%)を対象として、329例が運動介入群に、165例が通常ケア群に割り付けられた。運動介入群は、通常ケアに加えて4ヶ月間の監視下での運動とその後の身体活動に関する継続的なサポートを受けた。主要アウトカムはアルツハイマー病評価スケールの認知下位項目(ADAS-cog)、副次アウトカムは日常生活活動、精神神経学的症状、健康関連QOL、介護者のQOLであった。
 12ヶ月時点のADAS-cog得点は、運動介入群25.2(SD 12.3)、通常ケア群23.8(SD 10.4)へ上昇した(補正後の群間差:-1.4、95%信頼区間:-2.6~-0.2、P=0.03)。平均差は小さく臨床的意義は不明であるが、運動介入群では通常ケア群よりも認知障害が進んでいることが示唆された。副次アウトカム、ならびに認知症のタイプ、認知障害の重症度、性別、および移動能力別でのサブグループ解析については、有意差は認められなかった。

【解説】

 2015年の時点で、全世界には4,700万人の認知症者がいると推計されている1。超高齢社会である本邦においては、認知症の有病率は2.9%から12.5%と報告によって異なるものの年々上昇している2。そのため、認知症者の認知機能を維持・改善させるために効果的な介入方法を検討することは非常に有用である。
 運動療法や身体活動への介入は認知症者に対して広く用いられている手法であり、その効果に関していくつかのシステマティックレビューが報告されている3, 4)。Cochrane Databaseでは、運動は身体機能を改善させるが、認知障害、精神神経学的症状、うつ、および他のアウトカムに対する効果は認められないと結論づけられた3。一方、他の報告では、認知症のタイプや介入頻度に関わらず、有酸素運動は認知障害の改善に効果的であることが示された4。他にもいくつかのシステマティックレビューが報告されているものの、それらのほとんどにおいて、レビューに使用される論文の対象者数の少なさや介入期間の短さといった論文の質の低さが指摘されてきた。
 本研究は、英国の国立衛生研究所から委託されているDementia And Physical Activity(DAPA)試験からの結果である。12ヶ月間のフォローアップを完遂した対象が400例を超えており、類似した過去の研究よりも研究期間が長く、対象者数が多く、かつ多施設研究・盲検化といった点でも優れていることが特徴である。これらのことから、認知症者に運動療法を処方するうえで、本研究の結果は考慮に値すると考えられる。本研究からは、中等度から高強度の有酸素運動や筋力増強運動は、軽度から中等度の認知症者において認知機能の低下を遅らせることがないこと、むしろ認知障害を悪化させる可能性があることが示された。そのため著者は、中等度から高強度の運動療法は認知症における認知障害を改善させるための治療選択としては薦められないと提言しており、臨床において参考にすべきと考えられる。
 運動療法を行う際に一般的に考慮すべき点として、FITT-VPの原則(Frequency、Intensity、Time、Type、total Volume、Progression)が提唱されている5)。認知症者に対して運動療法を行う際には、身体機能の改善と認知障害の悪化の両者を考慮したうえでIntensity(強度)が過負荷にならないよう注意すべきである。また、認知機能の悪化予防を求めるならば運動療法単独では難しいため、精神運動学的・神経学的な視点からもType(手段、方法論)を考慮したうえでさらなる研究を進めて、その方法論を構築していく必要があると考えられる。

【引用・参考文献】

  1. Baumgart M, Snyder HM, et al.: Summary of the evidence on modifiable risk factors for cognitive decline and dementia: A population-based perspective. Alzheimers Dement. 2015; 11: 718-726.
  2. Okamura H, Ishii S, et al.: Prevalence of dementia in Japan: a systematic review. Dement Geriatr Cogn Disord. 2013; 36: 111-118.
  3. Forbes D, Forbes SC, et al.: Exercise programs for people with dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2015; 4: CD006489.
  4. Groot C, Hooghiemstra AM, et al.: The effect of physical activity on cognitive function in patients with dementia: A meta-analysis of randomized control trials. Ageing Res Rev. 2016; 25: 13-23.
  5. American College of Sports Medicine: ACSM’s guidelines for exercise testing and prescription (tenth edition). Wolters Kluwer, Philadelphia, 2016, pp.143-179.

2019年02月01日掲載

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