若年者と高齢者におけるロッカーソール着用による後方への変位刺激に対する姿勢応答の運動学的解析

Kimel-Scott DR, Gulledge EN, Bolena RE, et al.: Kinematic analysis of postural reactions to a posterior translation in rocker bottom shoes in younger and older adults.Gait & posture. 2014;39: 86-90.

PubMed PMID:23871319

  • No.1907-03
  • 執筆担当:
    東京工科大学保健医療学部理学療法学科
    渡部 祥輝
  • 掲載:2019年7月1日

【論文の概要】

 研究の目的は、若年者と高齢者を対象とし、ロッカーソール(rocker bottom soles、以下、RS)着用が後方への外乱刺激に対する姿勢応答に及ぼす影響を分析することである。対象は健常高齢者14名及び、健常若年者15名であった。測定条件はRSおよび通常靴着用の2条件であった。姿勢応答分析にはdynamic dual force plate及び三次元動作解析装置を用い、後方への外乱刺激の速度は事前に測定したステッピング反応閾値以下で行った。測定項目は関節運動範囲、反応までの時間、反応時間、平均ピーク関節角度の変動であり、足関節、膝関節、股関節、体幹、頭部について測定した。結果はRS着用において高齢者、若年者ともに関節運動範囲が増加し、応答までの時間に違いがみられ、応答時間の延長がみられた。条件に関係なく若年者と比較し、高齢者では関節運動範囲が狭く、応答までの時間が遅延していた。これらの所見は、RSは高齢者の転倒の危険性を高める可能性があることを示している。

【解説】

 ロッカーソール(rocker bottom soles、以下、RS)は靴型装具におけるアウトソール加工のひとつであり、靴底に転がり(ロッカー)形状を設定したものである。これにより、歩行中立脚期に生じる足関節背屈や中足趾節関節背屈を補い、足底に加わる圧を分散することで、足底圧を軽減するとされている1)。RSは糖尿病足病変をはじめとする下肢慢性創傷の治療や再発予防に多く用いられている。その目的は、潰瘍の発生要因の1つである歩行中の前足部高足底圧の軽減である。これまで、RSの機能に関する調査は、足底圧に対する効果を中心に行われており、前足部の足底圧軽減効果を得るにはこの研究で用いられているRS同様、ロッカーの頂点位置が靴長の約60%に設定する必要があるとされている2)。糖尿病足病変を呈する症例の多くは、糖尿病神経障害を併発しており、糖尿病神経障害合併症例では、静的・動的バランス能力の低下や歩行の不安定性が報告されており、転倒のリスクは高いとされている3)4)。そのため、糖尿病足病変患者にRSを用いる場合はこれらの能力低下に対する影響を考慮する必要があるが、これまでRSがバランス能力や歩行安定性に与える影響は十分に検討されていない。この点において、この研究の結果は重要な所見と言える。
 この研究では、ロッカーの頂点位置を靴長の60~65%に設定したRSを用いて、RSが高齢者や若年者において、後方への外乱刺激に対する姿勢応答にどのような影響を及ぼすかを検討している。この研究の結果、RS着用条件下では、若年者、高齢者ともに外乱刺激に対する姿勢応答時の足関節、膝関節の関節運動範囲が増加することや、足関節、膝関節、股関節の応答時間が延長したことが示されている。糖尿病足病変患者では足関節の関節可動域制限が顕著であることや、末梢神経障害による下肢の筋力低下、感覚低下が生じる。この点を鑑みると、糖尿病足病変患者にRSを用いる場合は、足関節を中心としたバランス反応が必要であり、転倒のリスクを高めることを十分に考慮した上で、必要な対処が必要であるといえる。

【引用・参考文献】

  1. Brown D, Wertsch JJ, Harris GF, et al.: Effect of rocker soles on plantar pressures. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2004; 85(1): 81–86.
  2. Chapman JD, Preece S, Braunstein B, et al.: Effect of rocker shoe design features on forefoot plantar pressures in people with and without diabetes. Clinical Biomechanics. 2013; 28(6): 679–685.
  3.  Nardone A, Grasso M, Schieppati M: Balance control in peripheral neuropathy: Are patients equally unstable under static and dynamic conditions? Gait & Posture. 2006; 23(3): 364–373.
  4.  Turcot K, Allet L, Golay A, et al.: Investigation of standing balance in diabetic patients with and without peripheral neuropathy using accelerometers. Clinical Biomechanics. 2009; 24(9): 716–721.

2019年07月01日掲載

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