脳卒中後患者におけるリズムの知覚産生能力と歩行の関係

Kara K Patterson, Jennifer S Wong, Svetlana Knorr, Jessica A Grahn : Rhythm Perception and Production Abilities and Their Relationship to Gait After Stroke. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2018;99:945-951.

PubMed PMID:29427575

  • No.1909-01
  • 執筆担当:
    東京工科大学医療保健学部理学療法学科
    土屋 順子
  • 掲載:2019年9月1日

【論文の概要】

 本研究は亜急性期および慢性期の脳卒中患者39名(脳卒中群)と健常成人21名(健常群)を対象として、Beat Alignment Test(BAT)によるリズム知覚スコアとリズム産生スコアを調査し、脳卒中群のリズム知覚スコアの特性、リズム知覚スコアと臨床的所見の関連、さらに脳卒中患者の歩行における時間的非対称性(temporal gait asymmetry: TGA)へのリズム産生能力の関与について検証を行った横断研究である。BATリズム知覚スコアの比較では、脳卒中群では健常群より有意に点数が低い結果となった(F1,56=17.5, P=.0001)。脳卒中患者におけるBATスコアと臨床所見の関係では、リズム知覚スコアはChedoke-McMaster Stroke Assessment(CMSA)の legスコア(Spearman ρ=.33, P=.04)とfootスコア(spearman ρ=.49, P=.002)に有意な相関を認めた。National Institutes of Health Stroke Scale、Montreal Cognitive Assessmentスコアとの相関は認められなかった。重回帰分析の結果、TGAはCMSA legスコア、脳卒中後の期間、リズム産生における非同期と関連があった(F3,35=12.8, P<.0001)。以上の結果から、リズム知覚は脳卒中後に障害され、TGAはリズム運動産生障害に関連することが明らかとなった。

【解説】

 音楽を聴いた際に自然とビートにタップを合わせてしまうように、音楽への自然な運動の同期は、リズムに関与するプロセスが脳の運動領域に存在するためであると考えられている1)。ニューロイメージングの研究では、リズムを聴いただけで基底核、小脳、背側運動前野、補足運動野といった運動に関わる領域が活動することが示されており、リズムのプロセスには聴覚系と運動系が相互に関与することが示唆されている1)
 近年、リズムに関わる神経生理学的メカニズムを利用して、脳卒中患者におけるリズム聴覚刺激に同期した歩行訓練の効果が多数報告されている2,3)。歩行時にリズム聴覚刺激にステップを同期させるには、リズムを知覚する能力(リズム知覚能力)と、規則的なリズム運動を産生する能力(リズム産生能力)が必要であり、歩行訓練の効果にもこれらの能力が影響する可能性がある。また、脳卒中患者の歩行の特徴のひとつに時間的非対称性(TGA)が挙げられるが、規則的で対称的な歩行の達成にも、リズム産生能力が関与すると推察される。しかし、脳卒中患者の臨床所見や歩行非対称性とリズムに関わる能力との関係について直接調査した研究はこれまで実施されていなかった。
 本研究において著者らは、リズムに関わる能力の指標にBeat Alignment Test(BAT)を採用し、リズム能力と脳卒中患者の臨床所見、歩行非対称性の関連を検証した。BATは、音楽ビートに合わせてキーボードをタップするリズム運動産生課題と、音楽と一緒に流れるビープ音がその音楽のビートに一致しているかを判断するリズム知覚課題から構成される4)。今回、脳卒中患者のBATにおいて麻痺側での運動を要求していないにも関わらず、リズム知覚障害、リズム知覚スコアと下肢運動機能の相関、さらにリズム産生スコアのTGAへの関連が明らかとなったことは非常に興味深い。単なる運動麻痺による運動機能障害だけでなく、リズム能力障害がリズム聴覚刺激を利用した歩行訓練や運動訓練の効果に影響する可能性がある。リズムに関与する脳領域である基底核や補足運動野の障害の有無等、訓練の実施には個々の患者の特性をよく考慮すべきである。

【引用・参考文献】

1) Robert J. Zatorre, et al.: When the brain plays music: auditory motor     
    interactions in music perception and production. Nature Reviews Neuroscience.
    2007; 8: 547-558

2) Rebecca S. Schaefer: Auditory rhythmic cueing in movement rehabilitation:     
    findings and possible mechanisms. Philosophical translations of the royal
    society B. 2014; 369: 20130402.

3) Lucas R Nascimento, et al.: Walking training with cueing of cadence improves
    walking speed and stride length after stroke more than walking training alone;
    systematic review. Journal of Physiotherapy. 2015; 61: 10-15.

4) John R. Iversen and Aniruddh D. Patel: The Beat Alignment Test(BAT):
    Surveying beat processing abilities in the general population. Proceedings of 
    the 10th International Conference on Music Perception and Cognition. Sapporo,
    Japan. 2008; 465-468.

2019年09月01日掲載

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