フレイルと術後死亡率のバイオマーカーとしてのPhase Angle;BICS研究

Mullie L, Obrand A, Bendayan M, Trnkus A, Ouimet MC, Moss E, Chen-Tournoux A, Rudski LG, Afilalo J. Share. Phase Angle as a Biomarker for Frailty and Postoperative Mortality: The BICS Study. J Am Heart Assoc. 2018 Sep 4;7(17).

PubMed PMID:30371163

  • No.2103-01
  • 執筆担当:
    順天堂大学保健医療学部理学療法学科
    森沢 知之
  • 掲載:2021年3月26日

【論文の概要】

【背景】Phase Angleは生体インピーダンス法(BIA)で計測される値で、サルコペニアやフレイルと強く関連している。本研究の目的は心臓外科手術後の死亡率、術後合併症、在院日数に対するPhase Angleの影響を明らかにすることである。
(Phase Angleの詳細は参考文献番号3の文献を参照いただきたい)
【方法と結果】BICS(Bioimpedance in Cardiac Surgery)試験では、カナダの2つの大学付属病院で心臓外科手術を受ける277人の患者を対象とした。術前にBIAの測定、身体機能と栄養状態の評価が行われた。Phase Angleは年齢、性別、BMI、併存疾患およびShort Physical Performance BatteryやFried scaleで評価されたフレイルと関連していた。Phase Angle低値は、1ヵ月後および12ヵ月後の死亡率の上昇と関連していた。また全身的な術後合併症の増加および入院期間の長期化がみられた。
【結論】Phase Angleはフレイルと関連しており、心臓手術後の死亡率、術後合併症および在院期間の予測因子である。

【解説】

 近年、BIAで測定されるPhase Angleは身体的健康(身体機能、栄養状態)の総合的な指標として注目されている。これまでの先行研究では地域高齢者、心疾患患者、透析患者、ICU患者、がん患者などの主に内部障害系の患者を対象とした研究が進んでおり、Phase Angleは各疾患の身体機能や栄養状態に関連し、予後や障害発生の予測因子であることが報告されている。心疾患患者においては心不全重症度が高いほどPhase Angleが低く、サルコペニアやフレイルにも関連する1.2)ことが報告されており、理学療法を行う上でも重要な評価となる。
 本研究では心臓外科患者の予後に術前Phase Angleが関連するかを検証した研究である。他の研究同様、Phase Angleは身体機能や栄養状態と関連し、予後予測因子として重要な評価であることが結論付けられている。Phase Angleは性別、年齢、BMIに依存するため、正常域の設定が難しいことから本研究でもPhase Angleを四分位範囲に分類した解析が使用されている。今後は臨床上重要なカットオフ値や正常範囲など有益な指標が示されるのが望まれる。また本研究では、術前の一時点のPhase Angleが用いられているが、術前後のPhase Angleの変化が身体機能の回復に関わるか、理学療法によってPhase  Angleを改善し得ることができるかなど、理学療法の臨床に生かせる研究が今後必要である。

【引用・参考文献】

1)  Hirose S, et al. : Phase Angle as an Indicator of Sarcopenia, Malnutrition, and Cachexia
   in Inpatients with Cardiovascular Diseases. J Clin Med. 2020
2) Colín-Ramírez E, et al. : Bioelectrical impedance phase angle as a prognostic marker
   in chronic heart failure. Nutrition 2012; 28(9): 901-905.
3)  吉田索、田中芳明、朝桐公男、他;体組成の基本事項 各指標の臨床的意義と臨床応用の可能性.
   臨床栄養 128, 2, 153-158, 2016.

2021年03月26日掲載

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