健康的な生活習慣や遺伝的リスクが認知症発症に関連することは、以前から報告されていた。しかし、これらの相互関係をビックデータにより、検証された研究はなかった。そこで、この研究ではUK Biobankのビックデータで、健康的な生活習慣は遺伝的リスクが高い場合でも認知症発症率低下に関連すると証明した。ただし、遺伝的リスクが低く生活習慣が良いものを基準としたときに、生活習慣不良でも遺伝的リスクが低い場合はハザード比1.52 (95%CI, 1.02-2.26)だが、生活習慣が良い場合でも遺伝的リスクが高い場合はハザード比が1.95 (95%CI, 1.60-2.38)となっていた。そのため、健康的な生活習慣は認知症発症率低下に寄与しうるが、遺伝的リスクが高い場合は、健康的な生活習慣でも認知症を発症する確率が高いことも理解する必要があると考えられる。また、対象はUK Biobankに自主的に参加したものであり、追跡終了時点の平均年齢は72歳であったことや、前向き研究ではないことなどが研究の限界にあげられている。今後、これらの知見をもとにした介入研究で証明することにより、効果的な予防策の提示につながると考えられる。
また、2017年にはLancetで認知症予防が取り上げられ、幼少期、中年期、老年期で計9つの危険因子をあげており、これらに対応することで35%が認知症予防可能と述べている1)。2019年にはWHOが認知症のリスク減少のためのガイドラインを発表し、身体活動や禁煙などの健康的な生活習慣を推奨しており、身体活動の推奨度は強いとされている2)。しかし、身体活動の具体的な方法や強度などは明確に示されていないため、今後検討が必要となるだろう。また、身体活動が認知症予防に有用であり、それを得意とする理学療法士が関与する機会も増えることが想定されるため、適切な知識が必要となると考える。一方で、確実に認知症発症を防ぐ方法は、現状では存在しないため、認知症とともに生きるための方策も重要となると考えられる。
本邦では、2019年6月に認知症施策推進大綱が策定され、「認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら、「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進していく。」基本的考え方が示された3)。理学療法士は、病院や施設、地域の介護予防などにおいて、認知症の人や認知症のリスクをもつ高齢者と接する機会は多い。そのため、適切な知識を習得し、認知症の有無にかかわらず対象に応じた運動療法などを実施して、さらには地域での活動・参加に働きかけていくことが必要であると考える。