生活習慣と認知症発症の遺伝的リスクとの関連

Lourida I, Hannon E, Littlejohns TJ, Langa KM, Hyppönen E, Kuzma E, Llewellyn DJ: Association of Lifestyle and Genetic Risk With Incidence of Dementia. JAMA. 2019 Jul; 322 (5): 430-7.

PubMed PMID:31302669

  • No.2003-01
  • 執筆担当:
    1) 認知症介護研究・研修東京センター
    2) 群馬大学大学院保健学研究科博士後期課程
    藤生 大我1,2)
  • 掲載:2020年3月1日

【論文の概要】

 健康的な生活習慣が、遺伝的リスクに関わらず認知症発症率低下に関連するか、UK Biobankのデータ (解析対象196,383名、平均64.1±2.9歳、女性52.7%、観察期間中央値8.0年)を後方視的に解析した。遺伝的リスクは、高、中、低に分類され、生活習慣は、認知症の危険因子 (喫煙状態、身体活動、食事、アルコール消費量)に基づいて、良、中程度、不良に分類された。アウトカムは認知症の発症 (原因は問わない)であり、入院や死亡記録で評価された。その結果、生活習慣は、良68.1%、中程度23.6%、不良8.2%、遺伝的リスクは、高20%、中60%、低20%に分類された。認知症発症率は、遺伝的リスクが高いものは1.23%、低いものは0.63%であった (調整ハザード比1.91)。遺伝的リスクが高く生活習慣不良なものは1.78%、遺伝的リスクが低く生活習慣の良いものは0.56%であった (ハザード比 2.83)。また、遺伝的リスクが高いもののうち、生活習慣が良い場合は1.13%、不良の場合は1.78%であった (ハザード比 0.68)。なお、遺伝的リスクと生活習慣との間に有意な関連はなかった。以上より、不良な生活習慣と遺伝的リスクの高さは、認知症発症率増加に関連しており、良い (健康的な)生活習慣は、遺伝的リスクが高いものの認知症発症率低下に関連していた。

【解説】

 健康的な生活習慣や遺伝的リスクが認知症発症に関連することは、以前から報告されていた。しかし、これらの相互関係をビックデータにより、検証された研究はなかった。そこで、この研究ではUK Biobankのビックデータで、健康的な生活習慣は遺伝的リスクが高い場合でも認知症発症率低下に関連すると証明した。ただし、遺伝的リスクが低く生活習慣が良いものを基準としたときに、生活習慣不良でも遺伝的リスクが低い場合はハザード比1.52 (95%CI, 1.02-2.26)だが、生活習慣が良い場合でも遺伝的リスクが高い場合はハザード比が1.95 (95%CI, 1.60-2.38)となっていた。そのため、健康的な生活習慣は認知症発症率低下に寄与しうるが、遺伝的リスクが高い場合は、健康的な生活習慣でも認知症を発症する確率が高いことも理解する必要があると考えられる。また、対象はUK Biobankに自主的に参加したものであり、追跡終了時点の平均年齢は72歳であったことや、前向き研究ではないことなどが研究の限界にあげられている。今後、これらの知見をもとにした介入研究で証明することにより、効果的な予防策の提示につながると考えられる。
 また、2017年にはLancetで認知症予防が取り上げられ、幼少期、中年期、老年期で計9つの危険因子をあげており、これらに対応することで35%が認知症予防可能と述べている1)。2019年にはWHOが認知症のリスク減少のためのガイドラインを発表し、身体活動や禁煙などの健康的な生活習慣を推奨しており、身体活動の推奨度は強いとされている2)。しかし、身体活動の具体的な方法や強度などは明確に示されていないため、今後検討が必要となるだろう。また、身体活動が認知症予防に有用であり、それを得意とする理学療法士が関与する機会も増えることが想定されるため、適切な知識が必要となると考える。一方で、確実に認知症発症を防ぐ方法は、現状では存在しないため、認知症とともに生きるための方策も重要となると考えられる。
 本邦では、2019年6月に認知症施策推進大綱が策定され、「認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら、「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進していく。」基本的考え方が示された3)。理学療法士は、病院や施設、地域の介護予防などにおいて、認知症の人や認知症のリスクをもつ高齢者と接する機会は多い。そのため、適切な知識を習得し、認知症の有無にかかわらず対象に応じた運動療法などを実施して、さらには地域での活動・参加に働きかけていくことが必要であると考える。

【引用・参考文献】

1)Livingston G, Sommerlad A, et al: Dementia prevention, intervention, and care.
  Lancet. 2017; 390 (10113): 2673-2734.
2)Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines.
  https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/312180/9789241550543-
  eng.pdf?ua=1
 (2020年2月16日引用)
3)厚生労働省ホームページ 認知症施策推進大綱. 
  https://www.mhlw.go.jp/content/000522832.pdf (2020年2月16日引用)

2020年03月01日掲載

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