運動後の冷水浴の適用条件の違いによる機能的および臨床的反応:無作為化比較試験

Machado AF, Almeida AC, Micheletti JK, Vanderlei FM, Tribst MF, Netto Junior J, Pastre CM: Dosages of cold-water immersion post exercise on functional and clinical responses: a randomized controlled trial. Scand J Med Sci Sports. 2017 Nov; 27:1356-1363.

PubMed PMID:27430594

  • No.2006-02
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科保健学専攻博士後期課程
    田中 優理
  • 掲載:2020年6月1日

【論文の概要】

 本研究の目的は、運動後の2つの異なる温度の冷水浴(Cold-water immersion: CWI)が、即時的または漸次的に運動後の回復にどのような効果をもたらすかを検討することである。18~25歳の健常男性60名を対象とし、冷水浴を9℃の水温で15分実施する群(以下、CWI1群)、14℃の水温で15分実施する群(以下、CWI2群)に加え、コントロール群(control group: 以下、CG群)の3群(CWI1群20名、CW2群20名、CG群20名)で、運動直後、40分後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後にそれぞれ冷水浴または休息を行い、各時点におけるcreatine kinase、筋痛、疼痛閾値、主観的な回復の程度、最大等尺性収縮を測定し、筋損傷の程度とパフォーマンスを評価した。
 結果として、CWI群では即時効果として運動後の筋痛が軽減し、CWI2群はCWI1群とCG群に比べ、運動後24時間時点の最大等尺性収縮の回復に対し効果を示した。また、本研究では冷水浴実施がパフォーマンス低下に影響を及ぼさないことが確認された。
 冷水浴の効果については対象や設定によって異なることが予想されるため、今後は、適応の対象者の取り込み基準や、冷水浴の時間および温度設定の幅を広げて検討していく必要がある。

【解説】

 寒冷療法はスポーツ現場において外傷発生後の応急処置や運動後の疲労回復を目的として広く用いられており、トレーニング負荷や疲労と傷害・疾病の発生との関係を調査したシステマティックレビューでは、選手はトレーニング負荷の集中する期間やトレーニング負荷が蓄積する段階において傷害リスクが高まることを示している1)。このような場面は練習量が増加するシーズン前や大会が集中するシーズン中が考えられ、選手は傷害予防およびパフォーマンス維持のためにも適切な方法で疲労回復を行う必要があるが、本研究により、その手段の1つとして冷水浴が有効である可能性が示された。
 一方、運動後の筋損傷のマーカー、筋痛、疲労、炎症を評価し疲労回復方法に用いられる手段の効果を調査した別のシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、寒冷療法の適応により遅発性筋痛や疲労の軽減とcreatine kinaseの軽減に効果を示したが、interleukin-6やC-reactive proteinの軽減には効果を示さなかった2)と報告されており、筋痛や疲労と炎症マーカーへの効果が一致しない点もあると思われる。さらに、筋損傷後のアイシングにおいては、筋再生過程において筋肉再生の阻害や遅延が生じる3)との報告がある一方で、筋再生過程に影響を及ぼさない4)ことを報告した論文もあり、寒冷療法の効果は実施の方法や手段によって異なる結果が生じることが予想される。
 これらのことから、現場や臨床で寒冷療法を適応する際には、適用方法及び即時的な効果、漸次的な効果をよく検討し、利用のタイミングや時間を決定していく必要がある。寒冷療法の効果として疼痛や炎症、腫脹の抑制は広く知られているが、冷却による詳細な効果や作用機序に関しては不明な点も多く、冷却媒体の種類や冷却時間、冷却温度の変化による効果を調査するさらなる研究が期待される。

【引用・参考文献】

  1. Jones CM, Griffiths PC, et al: Training Load and Fatigue Marker Associations with Injury and Illness: A Systematic Review of Longitudinal Studies. Sports Med. 2017; 47(5):943-974.
  2. Dupuy O, Douzi W, et al: An Evidence-Based Approach for Choosing Post-exercise Recovery Techniques to Reduce Markers of Muscle Damage, Soreness, Fatigue, and Inflammation: A Systematic Review With Meta-Analysis. Front Physiol. 2018; 26: 9:403.
  3. Takagi R, Fujita N, et al: Influence of icing on muscle regeneration after crush injury to skeletal muscles in rats. J Appl Physiol.2011; 110: 382-388
  4. Vieira Ramos G, Pinheiro CM, et al: Cryotherapy Reduces Inflammatory Response Without Altering Muscle Regeneration Process and Extracellular Matrix Remodeling of Rat Muscle. Sci Rep. 2016; 4; 6:18525

2020年06月01日掲載

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