一般的なレジスタンストレーニングを超えて:2型糖尿病の成人に対する治療的介入としての「筋肥大型レジスタンストレーニング」と「筋持久力型レジスタンストレーニング」の比較:系統的レビュー及びメタ分析

Acosta-Manzano P, Rodriguez-Ayllon M, Acosta FM, Niederseer D, Niebauer J: Beyond general resistance training. Hypertrophy versus muscular endurance training as therapeutic interventions in adults with type 2 diabetes mellitus: A systematic review and meta-analysis. Obes Rev. 2020 Jun;21(6):e13007.

PubMed PMID:32067343

  • No.2008-01
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科
    久留利 菜菜
  • 掲載:2020年8月1日

【論文の概要】

 レジスタンストレーニング(RT)は、2型糖尿病の管理をする上で有効かつ最も重要な介入の一つであるが、筋肥大型レジスタンストレーニング(HT)と筋持久力型レジスタンストレーニング(MERT)では、どちらがより有効であるかについては明確ではない。本論文の目的は、(a)糖尿病のある成人に対する監視下HTとMERTの血糖コントロール、身体フィットネス、身体組成、脂質プロフィール、血圧、CRP、QOLに対する個々の効果を評価すること、(b)どちらのRTがより効果的であるかを分析すること、(c)一般的なRTの効果を評価すること、また、(d)RTの要素(期間、頻度、強度)、糖尿病患者の特徴、薬物のどれが2型糖尿病患者に対するRTの効果を最も説明しうるかを同定することである。
 結果、2型糖尿病を持つ患者に対する治療的介入としてのHTもMERTも、血糖コントロール、身体フィットネス、身体組成に対する効果としては同様の有効な効果があることが示された。また、HTとMERTの効果は有酸素トレーニング(AT)に認められた効果と類似していた。
 結論として、いずれのRTも対象者の制約や好み、施設の可用性・適正に応じて、相互交換可能な治療的介入として適用することが可能である。

【解説】

 レジスタンス運動とは、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかけて行う運動の総称1)で、抵抗をかける手段としては、トレーニングマシンなどの機器を用いたもの、ダンベル、ゴムチューブなどの道具を用いたもの、スクワットや踵上げなど自重を用いた方法がある。本論文ではレジスタンストレーニングを筋肥大型レジスタンストレーニング(HT)と筋耐久型レジスタンストレーニング(MERT)の2つに分類しており、HTは筋量増加促進を目的とし、週2-4回、1 Repetition Maximum (RM)の70-85%の負荷で、8-12回の繰り返しを1-3セット、休憩は1-2分で行うものとし、MERTは特定の筋・筋群が最大下の抵抗で繰り返し筋力を発揮できる能力の増加を目的とし、週2-4回、1RM の70%以下の負荷で、10-25回の繰り返しを2-4セット、休憩は30秒-1分で行うものとしている。
 糖尿病患者の下肢筋力は健常者と比べて早期に10~20%落ちるとされており2、体力的に余裕のある日常生活を送るには大腿四頭筋の体重支持指数(最大筋力を体重で除した値Weight Bearing Index:WBI)が0.8以上必要であり、0.4を荷重歩行の閾値とされている3。筋力の維持・向上を目的としたレジスタンス運動は糖尿病患者においても有用である。
 また、骨格筋での糖の取込みは主に糖の運搬役である糖輸送担体(Glucose transporter 4:GLUT4)によって行われる。GLUT4はインスリンや筋収縮刺激により細胞質から細胞表面に移動(トランスロケーション)し、糖取り込みを行うが、インスリンによるGLUT4のトランスロケーションはインスリン依存性の活性化メカニズムであり、筋収縮によるGLUT4のトランスロケーションは、インスリンシグナルとは独立した、インスリン非依存性の活性化メカニズムである4)。レジスタンス運動による筋収縮は、筋量の増加・減少予防だけではなく、筋細胞でのGLUT4による筋細胞内への糖の取込みを増加させ血糖降下作用を高める。
 理学療法診療ガイドライン(ダイジェスト版)5では、2型糖尿病患者に対する運動療法(推奨グレードA/エビデンスレベル1)として、「有酸素運動を基本として、レジスタンス運動も行うことが望ましい。運動強度は中等度(最大酸素摂取量の40~60%)の強度、運動持続時間は20~60分、運動頻度は週に3~5回が勧められる」と示されており、有酸素運動とともにレジスタンス運動も推奨されてはいるが、レジスタンス運動を行う際の負荷設定等については具体的な指定はない。
 今回の論文では、2型糖尿病を持つ成人に対する治療的介入としてのレジスタンス運動は、筋肥大を目的としたレジスタンストレーニングであっても筋持久力の改善を目的としたレジスタンストレーニングであっても血糖コントロール、身体フィットネス、身体組成に対して同様の有効な効果が認められており、有酸素トレーニング(AT)に認められた効果とも類似していたことが示されたが、糖尿病の特定の合併症に焦点を当てている論文や慢性的な合併症や併存疾患のある対象者を含む論文は除外されて検討されている。
 したがって、糖尿病患者の運動処方の際には、合併症や他の疾患による運動の制限や制約の有無を確認し、対象者の運動の好みや利用可能な施設や道具などの環境を考慮して処方する必要がある。

【引用・参考文献】

1) 横地正裕:運動療法の実際.糖尿病の理学療法.MEDICAL VIEW.東京.2015.
2) Nomura T, Ikeda Y, Nakao S, et al; Muscle strength is a matter of insulin resistance
   in patients with type 2 diabetes; a pilot study. Endocr J  54, 791-796, 2007.
3) 黄川昭雄、山本利春、佐々木敦之、他:機能的筋力測定・評価法―体重支持指数( WBI)の有効性と
   評価の実際.日整外スポーツ医会誌10:463-468,1991.
4) 加賀英義、鈴木瑠璃子、田村好史:血糖降下のメカニズムとエビデンス.糖尿病の理学療法.
   MEDICAL VIEW.東京.2015.
5) 理学療法診療ガイドライン第1版 “ダイジェスト版”:
   http://www.japanpt.or.jp/upload/branch/jsptdm/obj/files/%E7%
   90%86%E5%AD%A6%E7%99%82%E6%B3%95%E8%A8%BA%
   E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%
   A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%80%80%E7%AC%AC1%E7%
   89%88%E3%80%80%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%B8%
   E3%82%A7%E3%82%B9%E3%83%88%E7%89%88.pdf (2020年7月2日閲覧)
 

 

2020年08月01日掲載

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