高齢者における静的・動的バランスのための体幹と下肢筋の評価:超音波検査

Özkal Ö, Kara M, Topuz S, Kaymal B, Baki A, Özcakar L: Assessment of core and lower limb muscles for static/dynamic balance in the older people: An ultrasonographic study. Age and Ageing 2019; 48: 881-887.

PubMed PMID:31268513

  • No.2009-02
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科
    佐藤 江奈
  • 掲載:2020年9月8日

【論文の概要】

 この研究は、高齢者の体幹・下肢の筋厚と静的・動的バランスの関係を調査するため、65歳以上の高齢者と20〜40歳の性別が一致した若年者に対し、バランス、膝の固有受容感覚、筋厚計測、握力について評価した。バランス評価は、フォースプラットフォームシステムにより通常立位と動揺下での立位保持における姿勢動揺と前後左右4方向への重心移動による安定性限界を計測した。筋厚は、横隔膜、腹直筋、内・外腹斜筋、腹横筋、多裂筋、最長筋、腰方形筋、大腿直筋(RF)、中間(VI)・外側広筋、前脛骨筋(TA)、ヒラメ筋、腓腹筋について計測した。若年成人と比較し、高齢者ではすべての静的(姿勢動揺)パラメーターは高く、すべての動的(安定性限界)パラメーターは低かった。筋厚は横隔膜は厚く、多裂筋とTA以外の体幹や下肢の筋は薄かった。膝の固有受容感覚は、45度と70度での誤差が大きかった。多変量解析によるバランスの予測因子は、年齢、性別、身長、RF、VI、横隔膜の厚さであった。体幹、下肢の筋厚は、バランスに重要な要因である。このことは、転倒と局所的なサルコペニアを防ぎ、高齢者の姿勢・バランスを改善するために、腹部および大腿四頭筋を強化するための理論的根拠を提供する。

【解説】

 バランスと筋厚の関係に着目して解説する。この論文では、体幹に横隔膜を含み、超音波にて体幹と下肢筋厚を計測し、姿勢動揺や安定性限界との関係について検討されている。高齢者は若年者と比較すると、より多くの姿勢動揺を示し、また各方向の安定性限界が大幅に減少した。筋厚は、多裂筋とTAを除く下肢と体幹筋は薄く、横隔膜は厚かった。加齢に伴う固有受容の低下は、身体の動揺に負の影響を与える1)。また、加齢に関連しバランスと筋厚は低下する2)。本研究では、膝関節固有受容は加齢の影響を受け低下したが、バランスとは関連しなかった。筋厚において、多裂筋は加齢により大きさは影響されないが脂肪浸潤は増加する 3)、TAは、I型線維の割合が高く(≒76.4%)4)、加齢に伴う損失はタイプI線維よりタイプII線維で高い5)ことが筋厚が薄くならないことに影響したと考えられる。また、横隔膜は老化の影響は最小限である6)ことと他の体幹筋の萎縮による代償性肥厚により筋厚が厚くなった可能性が考えられる。バランスと筋厚の関係において、RF、VIと横隔膜の筋厚は、内外側動揺と左右の安定性限界に有意な相関を認めた。腹腔内圧(IAP)が、特に横方向に下部の胸郭を拡張する7)ことから、横隔膜の収縮はIAPを増加させることにより、姿勢、体幹および腰部の安定性に大きく寄与する8)。内外側の安定性が転倒リスクの主要な指標である9)。今回横隔膜のみが左右の安定性限界に寄与していた。またバランスと姿勢の維持にも関連している可能性があることから、横隔膜は高齢者の障害を防ぐための臨床的に重要な筋肉である。

【引用・参考文献】

1)Manchester D, Woollacott M, Zederbauer-Hylton N, Marin O. Visual, vestibular and
  somatosensory contributions to balance control in the older adult. J Gerontol
   1989; 44: M118–27.
2)Gadelha AB, Neri SGR, Nóbrega OT et al. Muscle quality is associated with dynamic
  balance, fear of falling, and falls in older women. Exp Gerontol 2018; 104: 1–6.
3)Stokes M, Rankin G, Newham DJ. Ultrasound imaging of lumbar multifidus muscle:
  normal reference ranges for measurements and practical guidance on the technique.
  Man Ther 2005; 10: 116–26.
4)Johnson MA, Polgar J, Weightman D, Appleton D. Data on the distribution of fibre types
      in thirty-six human muscles. An autopsy study. J Neurol Sci 1973; 18: 111–29.
5)Ikezoe T, Mori N, Nakamura M, Ichihashi N. Age-related muscle atrophy in the lower
  extremities and daily physical activity in elderly women.
  Arch Gerontol Geriatr 2011; 53: e153–7.
6)Boon AJ, Harper CJ, Ghahfarokhi LS, Strommen JA, Watson JC, Sorenson EJ.
  Two-dimensional ultrasound imaging of the diaphragm: quantitative values in normal
  subjects. Muscle Nerve 2013; 47: 884–9
7)Key J. ‘The core’: understanding it, and retraining its dysfunction.
  J Bodyw Mov Ther 2013; 17: 541–59.
8)Hodges PW, Gandevia SC. Changes in intra-abdominal pressure during postural and
  respiratory activation of the human diaphragm. J Appl Physiol 2000; 89: 967–76.
9)Maki BE, Holliday PJ, Topper AK. A prospective study of postural balance and risk of
  falling in ambulatory and independent elderly population.
  J Gerontol 1994; 49: M72–84.

2020年09月08日掲載

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