高齢者施設における身体活動量の定量化:構造化レビュー

Ríona Mc Ardle, Karen Sverdrup, Silvia Del Din, Sue Lord, Ngaire Kerse, Lynn Rochester and Lynne Taylor. Quantifying physical activity in aged residential care facilities: A structured review. Ageing Res Rev. 2021 Feb 13;67:101298.

PubMed PMID:33592308

  • No.2104_01
  • 執筆担当:
    順天堂大学保健医療学部理学療法学科
    澤 龍一
  • 掲載:2021年4月15日

【論文の概要】

目的:介護レベル別に高齢者施設入居者の身体活動(PA)に関する量、強度、パターンを定量化するための文献をまとめ、今後の研究のための提言を行うこと
方法:構造化レビューにより30編が抽出された。
結果:PA評価には質問紙や機器が用いられており、中でも加速度計は70%の研究で用いられていた。全介護レベルにおいて、少ないPA量、低強度PAが報告されており、日々のPAパターンもあまり変化しないことが示唆された。認知機能障害を有する対象者が参加する研究は少なく、代表性バイアスの可能性が考えられた。方法論的アプローチやPAアウトカムに一貫性がなく、結果は限定的であった。研究成果や限界を基に推奨できることは、高強度PAよりも全PA量あるいは低強度PAが介入アウトカムにふさわしいということである。研究を実施するにあたり、高齢者施設でPAを定量化するのに最もふさわしい方法論やPAアウトカムを考慮する必要もある。

【解説】

 本研究は2020年1月までに発表された、高齢者施設入居者の身体活動を定量化した研究をまとめ、今後の研究に向けた提言を行うために実施された系統的レビューである。
 人口高齢化が世界的に進展する中で、社会的ニーズに対応する形で高齢者施設は先進国を中心に増加してきた。世界保健機関(WHO)の定義する健康を維持する上で、身体活動は重要な要素であり、2020年にはWHOから身体活動に関するガイドラインも発表されている1)。そのガイドラインの中で、高齢者の健康維持のためには①少なくとも150-300分/週の中等度強度有酸素運動、②少なくとも75-150分/週の高強度有酸素運動、あるいは①②を組み合わせて同等の運動を実施することが推奨されている。しかしながら、少なくとも日本の高齢者施設において、推奨される運動強度を実施することは難しいと考えられる。海外の先行研究においても高齢者施設における身体活動を妨げる要因がまとめられており2)、それは大きく個人要因、施設環境要因、組織要因に分けられる。
 高齢者施設入居者の健康維持を目的とする身体活動の研究はエビデンスが確立されていない現状がある。地域在住高齢者において低強度PAが健康アウトカムに良い影響を与えることが近年報告されており3)、高齢者施設入居者を対象にした低強度PAと健康アウトカムの関連について、エビデンスを構築していく必要がある。

【引用・参考文献】

1) World Health Organization. WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary
    Behaviour. 2020.
2) Benjamin K, Edwards N, et al.: Barriers to Physical Activity and Restorative Care for
    Residents in Long-Term Care: A Review of the Literature. J Aging Phys Act.
    2014;22(1):154-165.
3) Ku P, Hamer M, et al.: Device‐measured light‐intensity physical activity and mortality:
       A meta‐analysis. Scand J Med Sci Sports. 2020;30(1):13-24.

2021年04月15日掲載

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